03





店に入ると、内装も外装に見合った上品な感じに纏められていた。
クラシック音楽の似合いそうな、古めかしい壁や家具。一目見るだけでアンティーク物だとわかった。
それに、その場に流れる雰囲気も古めかしいものであった。一体どこからこんな雰囲気が流れてくるのか。
そんなふうに僕が内装に見惚れているうちに、彼は部屋の奥の方に向かって声をかけていた。

「帰ったぞ。そしてお客だ、準備しろ」
どうやら、彼以外にもまだ従業員がいるらしい。

「はい、もうすぐ済みますっす!」
なにやら体育会系の部活にあるような返事が聞こえた。懐かしい。昔は自分もあんなことしてたっけ。

「お茶を淹れたのでどうぞ」
灌漑に耽っていると、彼に呼ばれ、これまたアンティーク調のテーブルと椅子に案内された。

 
「そういえばお客さん、名前は?」
テーブルに肘を立てて指先を組み、その上に顎を乗せた彼が僕に問いかける。
「名前、ですか?」
「ええ、名前です。これでも客商売ですからね、名簿作成とかするんですよ」
そういう話を聞くと、ここが店なんだな。と思い知らされる。それを知らなければ、一昔前のヨーロッパ貴族の屋敷の中のようなのに。

「僕の名前は多木洋壱と言います。今日はよろしくお願いしますね」
言った後、淹れたばかりで湯気の立つ紅茶をすすった。アールグレイか。僕の好きなやつだ。

「私は佐々凪と言います。こちらこそよろしくお願いしますね」
またあのにこりとした微笑みを向けられ、手に持っているティーカップが揺れた。

「凪、ってことは、店の名前ってあなたの名前なんですか?」
「そうです。…ところで、遅いですねあの馬鹿」
「? 今何か…」
「いえ、気のせいじゃないでしょうか」
何か聞こえたような気がしたんだけど…気のせいか。

「あと、私のことは下の名前で呼んでくださって構いませんので」
「そ、そうですか。それじゃあ…凪、さん」
 さすがに、今日会ったばかりの人間をさん抜きで呼べるほど僕はフレンドリーな人間じゃない。
「はい、洋壱さん」

「ところで、あなたが悩んでいるのは職場での人間関係のことではないですよね?」
「! また当てられてしまいました。すごいですね」
「それほどでは。心理学に基づいた観察の結果です」
それをすごいと言わずしてなんと言おうか。僕はそう思ったけど、本人がそれほどではないと言っているのだからこれ以上食い込む話ではない。

「実は、僕赤面症で人見知りなんです。なのに営業課に回されて…成績はいつも最下位だし、そのせいで課長に怒られてばっかりだし…僕、どうしたらいいのか……」
言ってて涙が出てきた。想像以上に僕の心は疲れていたらしい。

「大丈夫です。今日はそれを克服しましょう」
ハンカチを差し出しながら、凪さんが僕にそう言った。
「え…でもどうやって?」
渡されたハンカチで、僕は涙を拭う。
「赤面症や人見知りは、恥ずかしいと思う気持ちが起こす症状です。だから、恥ずかしいと思わないようにすればいいんです」
「なるほど!」
これで、僕は変われる! そう思うとうれしくて、思わず手を握りしめた。

その時凪が笑っていたのを、知る者はいない。







11.05.21.Sat


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