02





「あれー? ここにもない……」
酒を飲もうと思って酒場を探したのはいいけど、これがなかなか見つからない。普段来ないところだからな…というのは心の言い訳。

「うー…大人しくコンビニかなんかで缶ビール買って帰ればよかった…ここどこ…?」

歩いているうちに、なんだかいやに寂れた、ほとんどがシャッターの降りた空き店舗かヤクザの運営していそうな怪しい風俗店ばかりのところに出てしまった。
ふらふらと、当てもなく彷徨う。実際に当てはない。ただの迷子なのだから。

と、すぐ横に辺りの店とは雰囲気や趣きの違う店があるのに気がついた。
見るからに上品そうで、この界隈にはそぐわない店。なんでこんなところにこんな店が? それが僕の第一印象だった。

店の前でうっかりぼけーっとしていたら、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「うわぁっ!?」
あまりにもぼけーっとしすぎて、僕は思わず大きな声を上げて飛び上がってしまった。
恐る恐る振り返ってみると、そこには僕より同じかそれ以上の歳と思われる、優しげな風貌の青年が立っていた。

「もしかして、お客さんですか?」
どうやら、ずっと店の前に立ちすくんでいたから客と思われたらしい。

「いえ、別にそういうわけでは……」
「…あなた、心が疲れてますね」
「っ!?」
自分のことを言い当てられて、僕は目を見開く。

「ど、そうしてそれを…」
「まず、目の下にくまがあります。くまは寝不足のときにもできますが、ストレス過多のときにもできるんです。そしてあなたは、寝不足になるような人に見えない…これでいいでしょうか?」
にこやかに微笑みながら、彼はすらすらと言葉を吐きだした。

「そうなんです、今日も課長に怒られたばかりで…」
下を向きながら頭をかいて、僕はそう言った。なんで彼にそんなことを言ったのか。
…言わずにはいられなかったのだ。彼の持つ雰囲気が、僕から言葉を引き出した。そう、僕は思った。

「そうですか。なら、ぜひ我が店へお越しください。決して悪いようにはしませんので」
さっきみたいな微笑みを浮かべて、彼が、云う。

「『慰め屋 ナギ』へ、ようこそ。迷える子羊さん」

子羊なんて気障な言葉も、彼が言うとどこか似合う様な、気がした。

後から考えると、どうして店に入ってしまったのか。そう考えてやまない。
けど、その店に入って、僕は変わった。それだけは確かだとわかる。
入ってよかたのか悪かったのか、それは…僕にはわからないことだ。

店に入るときに、ドアに吊るしてある鈴がちりんと鳴った。







11.05.16.Mon


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