狂気と知れぬ純情
ジョウトのバッジをすべて集めた、そう聞いたのは半年も前の話。
今度はカントーのジムに挑戦するって出ていってからまた半年が経った。
もう、一年近く彼女に逢っていない。
貴女と繋がるためだけに買ったポケギア。
履歴にはたった一人の名前並しかんでない。
『伝説の強いトレーナーがシロガネ山にいるって聞いたの!』
伝わって来る楽しそうな声。
最初はそれだけで満たされてた、けどもう無理なの。
貴女も十分強いトレーナーだよ?
もう、良いじゃない。
だから、
(帰って来てよ…)
そんなこと、瞳を輝かせて言う貴女に言えるわけもない。
いつだって、貴女の話の中心は他のトレーナーのこと。
知りもしないトレーナー達に憎悪すら覚える。
知らない。
聞きたくなんかない。
ほんの少しで良いから、
わたしに気づいて。
「コトネなら、勝てるよ!そのトレーナーにだって」
『ありがとう!ななしがそう言ってくれるなら間違いないってことね!』
貴女が喜ぶのなら、平気で無責任な事を言うわたし。
正直、勝っても負けても、貴女が隣にいないのなら意味が無い。
一緒に喜ぶことも、
励ますことだって出来ないのだから。
なら電話越しだって、貴女と繋がっていられるならそれで良いと思った。
***
『わたし、負けちゃった』
この間とは違う沈んだ声。やはり行ったんだシロガネ山に。ずっとポケギアでの連絡が途絶えていたから、電波が届かなかったんだろう。
その間わたしがどれだけ心配したか貴女わかる?
ポケギアは相変わらず使えないみたいで、シコガネヤマのポケモンセンターから入った連絡。目の前のモニター映し出された久々に見る貴女の顔。
何故だろう、まるで知らない女性みたい。
『伝説を甘く見てた。でも次は絶対に負けないわ!』
「…まだ挑戦するの?」
闘争心にキラキラと瞳を輝かせている。わたしの記憶にも強く残っている大好きなその表情に少し安心する。
「応援してるから」
『ななし…。うん、ありがとう!』
ずっとずっと
応援してるから。
目の前にいるのにこんなにも遠い。
『あ、そうだ聞いて!そのトレーナーがレッドさんって言うの』
――え?
『無表情だし無口で何考えてるか一見分からないけど』
――なに
『ポケモンを見るときは凄く優しい顔してね』
――やめて
『それに、またバトルしに来いって言われたんだ』
――やめてよ
誰かを想う貴女の顔なんて
見たくない。
『ななし!応援しててね!!』
ずっと
ずっと
応援してきた。
所詮電話越しでしか
その地位を確立出来ないの。
わたしの大好きを奪った
赤色が憎くて堪らない。
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