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優しさの中で融解死

「晴れたー!!」

久しぶりに顔を見せた抜けるような青空とお天道様が、辺り一面を覆う程の綺麗な雪化粧を施した表面をキラキラと目が痛くなる程にに反射させる。
まだ誰も立ち入っていない銀世界は、なんとも幻想的だった。

「雪掻きしないとね」

はしゃぐわたしとは真逆に、隣でのほほんとしてる癖に真っ先に現実的な事を言うコウキくん。ロマンチシズムのかけらも無い。
でも、その笑顔が何だかやたら眩しかったのは、積もった雪の白さのせい…ということにしておこう。



「コウキくん!雪合戦やろーよ!」

突然の提案に雪掻きの手を止めて、困ったように笑うコウキくん。その笑顔が好きなのもあるけど、最終的には良いよって言ってくれるからつい無茶な事を言ってしまう。

でも、温厚な見た目からは想像出来ないくらい、君が勝負事に闘志を燃やすことをわたしは知っていたのに嬉しくてすっかりと忘れてた。

にこりと可愛らしい顔立ちで言い放つその台詞には、絶対的な圧力。



「勝負するからには、負けないよ」



…挑む相手を間違えたようだ。




「じゃあ、こっちがわたしの陣地でそっちがコウキくんの陣地ね!あ、勝敗は何で決めよう?」

するとコウキくんがこれは?って被っている物を指差したから、成る程と頷いた。

「先に帽子を取られた方が負けね!」
「分かった。他は何でもありなの?」
「雪に石を入れたりはダメです」

コウキくんがそんな事しないなんて分かりきってるけど、お約束的に言ってみたら「するわけないよ」とぽんぽんと軽く頭を撫でられた。

…なんだかもう勝ったような余裕の表情だし。

自分の陣地へと向けて歩いていくその背に、負けるもんか!と拳を向けた。



お互い位置についたのを確認してから、わたしの掛け声で雪合戦が始まった。

真っ先にポケモンを出して、雪玉の大量生産。そりゃなんでもありと言った手前、自分一人で戦う訳などなかった。コウキくんも考えは同じだったみたいで、ポケモンを出して配置につかせた。ある意味総力戦だ。

防護壁も作って攻撃に備える。すると数秒と経たずにびゅんびゅんともの凄い早さで横切っていく雪玉の数の半端ない事!!
あ、当たっても問題ないのかなあれは…。



身動きが取れなくなってしまったわたしにコウキくんは、


「ななしー!合戦になってないけどー?」


まったく容赦なかった。


向かいから届いた呼びかけを聞く限り、本人は純粋に楽しそうであるが、こちらからしたら恐怖以外のなんでもない。あれで素なんだからまた厄介だ。

すると急に流れるような攻撃が止んだ。

不思議に思って少しだけ雪の壁から顔を出して様子を伺うと、どうやら誰か尋ねて来たようだった。


あの格好は配達員さんだ。

コウキくんが荷物を受け取ると、爽やかな笑顔を残して来た道を駆けて行った。

「何か頼んだの?」
「うん。でもこんな早く届くと思わなかったよ」

そのお陰であの猛攻撃から逃れられたのはある意味助かった。心の中であの配達員さんに一方的にお礼をする。

ガサガサと包みを開けていくコウキくん。こ、ここで?でも、何を頼んだのかちょっと気になったから隣から覗き込む。

「ななし」
「??」

名前を呼ばれたと思ったら、包みの中身を確認する間もなく頭に一瞬感じた冷気とすぐにやってきた馴れない違和感。

これは、


「帽子…?」

びっくりしたけど確認するように尋ねたら、嬉しそうににっこりと頷くコウキくん。

「で、でもわたし別に誕生日でもないし…」
「似合うかなって思って。気に入った?」




…ずるい。




嬉しくて、頬がやたら熱いのをごまかすように、貰ったばかりの真新しい帽子をぎゅうと握りしめて深く被った。

「ありがと…」
「良かった」

目の前の君はきっと、これでもかってくらい嬉しそうに笑ってるんだろうな。恥ずかしくて全然顔が上げられない。
すると急にコウキくんが「あ」と小さく呟いたので、わたしもやっと顔を上げた。


「帽子、取ったから僕の勝ちだね」

その手には今までわたしが被っていた帽子がひらひら揺られている。
…なにもかも最初からこれを狙ってたんじゃないかってくらいのタイミング。



「ほんと、ずるい…」



勝負にも、コウキくんにも完敗だ。


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