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甘い瞳に心を奪われて (レッド)

オーキド研究所へと向かう途中、運悪く突然の夕立に降られてしまったわたし。
慌てて研究所へと走ったけれど既に遅く、ものの数分で頭から足先までびしょ濡れだった。

入口で向かえてくれた博士がわたしの姿を見るや否や、大慌てで着替えとタオルを持ってきてくれた。忙しいのに大変申し訳ない。

そうして着替えるよう通された来客用の部屋で出るのは大きな溜息。窓の外を見れば先ほどの土砂降りが嘘のように、今は快晴な青空が広がっている。


「ついてない…」

文句を言っても仕方ないと、肌にぺっとりくっついた服を脱いでいく。

しかし濡れた服というのは中々厄介で、思うように腕を通ってはくれない。
だいぶ苦戦したけれど、ようやく着心地最悪の上着を取っ払うことが出来た。


――― ガチャ


「・・・・・」
「・・・・・」


お互い驚いた表情のまま見詰め合い、しばらく続く沈黙。
状況を理解できずポカンとするわたしをよそに、扉を開けた人物は直ぐにいつもの表情へと戻った。

「鍵開いてた、から」

そして特に焦る様子も無く普通に接してくるレッドくんに、一気に現実に引き戻されたわたしは、自分でも驚くほどの俊敏な動きで脱いだ服を引っ掴み身体を隠した。

「わわわわ!!!わたしカギかけてなかった!!??」
「ごめん」

ようやく謝罪しつつもその瞳は一向に反らされる気配がない。
脱いだのがまだ上着だけで本当に良かった!本当に!下着姿を見られただけでも十分恥ずかしいけれど。

「その、こっちこそごめんね!!」
「・・・・・」

気まずさを微塵も感じさせないほど真っ直ぐに向けられる視線から逃げるようにそわそわとしてしまう。彼にはわたしが服を着ているようにでも映っているのだろうか??

「あの、レ、レッドくん…わたし、着替えてるんだけど…」
「見れば、分かる」



見れば…?????

見れば分かる!!??


だったら一刻も早く部屋からご退室頂きたい!!!



「だ、だ、だから!一旦部屋から…」

「…照れてるの?」


それ聞く!!??


「ななし、ピカチュウみたい」

そうして頬っぺたを指差すレッドくん。
ただでさえ頬へと集まっていた熱が、さらに熱を帯びる。


「いいから!!!!部屋出てて!!!!」


恥ずかしさを振り払うみたいに、これでもかと大声で言い放った。




***

「確かにね、カギかけなかったわたしも悪いけどね、ノックくらいはしようよレッドくん。わたしじゃなくてお客さんだったら一大事だったよ?」
「雨、凄かった」
「話聞いて!!」

着替えも無事済ませ、ソファーへと並んで座るわたし達。

この失態を引き起こしたのは確かに自分であるが、納得のいかない部分が多々ある。一生懸命話しているのに、レッドくんてば全然聞いてくれていない。多分…。

きっとレッドくんにはやましい気持ちなんて少しも無くて、ああ、ななしが着替えてたんだ。くらいの認識なんだろう。気にもされてないと考えるとお年頃の女子としては少し複雑だけど。


「着替えるななしを見たとき…」

堂々と見るだの見ただの、
この人はもう!!!

いっそ潔くて文句を言う気にもならなくなってしまった。


「ゲットする前の感覚に、少し似てた」
「え?」

レッドくんは視線だけこちらへ向けると、そんな事を言い始めた。
その言葉の意味を考えあぐねるよう首を傾げてレッドくんを見る。するとレッドくんも同じようにこちらに顔を向け、迷うことなくはっきりと言われた。


「どきどきする、感じ」
「どっ…!?」


レッドくんワールド炸裂です。

ポケモンの事に例えるあたりが何とも彼らしい。
勝手にそういう事には興味がないのかなと思っていたけど、つまり少しは意識して頂けたと思って良いんだろうか。


「それに、見るなって方が無理」
「・・・・・、何さらりととんでも無い事言ってるの!?」


そう言って視線を外したレッドくんの頬がピカチュウとまでいかないけれど、ほんのり染まっていたのがなんだか可愛くて。さっきのお返しとばかりに「照れてるの?」なんて聞けば、帽子を下げられてしまった。
…ずるい。


「似た感覚、もう一つある…」
「うん?」

帽子を下げたままぽつりと言うレッドくん。
ゲットする前の感覚に似たものが、なにやらもう一つあったようだ。


「でも言わない」
「ええ!?ここまで言っておいて!?」

教えて欲しい!と帽子で顔が見えないレッドくんを覗き込めば、その瞳に捕らわれる。
逸らす事も出来ないまま、同時に重ねられた手から伝わる熱。



「絶対に、逃がさないって思った」




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