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きみに落ちるのは一瞬だ (ユウキ)

「ななし!どうしたんだよ!?」

珍しく取り乱して声をあげたユウキくん。無理もない。わたしの片足の膝からはついさっき転んで出来たばかりの結構大きな擦り傷があったから。
まだ手当もしてない箇所からは血が滲み出てきているので、ぱっと見だと驚くだろう。


「ドジってしまいましたー、薬箱どこでしたっけ??」

戯けるように言っても答えが返ってくることは無くて、無言で手を引かれ強制的に椅子に座らされた。訳が分からずに、再び立ち上がろうとすれば「いいから!動くなって!」とお叱りをうけてしまった。ここは大人しく頷いておこう。

ユウキくんは棚から箱を取り出し持ってくると、わたしの前に跪いた。箱を開くとテキパキ消毒液やらガーゼを出していく。

「ユウキくん!?あとは自分で出来るから!大丈夫ですっ!ありがとう!!」
「ななしがやるより、オレがやったほうが早いよ」

ごもっともなんですが、ミジンコ程度にも乙女心は持ち合わせてる訳で。
そんな体制、しかも近い距離で足をマジマジと見られるのは手当てと分かっていても、恥ずかしい!結局、自分でやるからと必死に抵抗しても意味が無かった。


「…こんな派手な傷つくって、受け身も取れなかったのか?」
「いやあ、もう一生懸命で」

「一生懸命なななしは好きだよ。けどその度にこれじゃ、オレの心臓のが持たない」

さらっと爽やかになんてこと言うんだ。大体、バトルやコンテストやらで鍛えたダイヤモンド並の心臓持ってるくせに何言ってんの!!

「・・・・・」

じっ、とその作業に魅入ってしまう。ただガーゼをあてて、包帯を巻いてるだけなのにユウキくんの所作はとても綺麗。コンテストの為に日々生活の中でも気を遣っているユウキくん。極自然にそうなってしまうのも頷ける。

「ほら、出来たぜ」

わたしを見上げてニカッと太陽みたいな笑顔。コンテストの為に自分を磨いている彼も好きだけれど、不意に見せる飾らないこんなところも好きだと思う。

「おお、完璧だ…」
「旅で自然と出来るようになっただけだ」

そうは言うけど、こんな手際良くは一朝一夕で出来るものでも無いと思う。何でも極めないと気が済まないユウキくんだからこそだろう。

「炊事洗濯料理裁縫…、ユウキくんなんでも完璧にこなしちゃうから素敵なお嫁さんになれるよ」
「へえ、そしたらななしが貰ってくれんの?」

「いや、例えだよ、例えっ」

くやしくて、薬箱を片付けるユウキくんの背中にふざけてそう言えば、こんな事じゃ動じない彼はこちらへ振り返って恥ずかしげもなく爆弾発言。
まさか、そんな返答をされると思わなかったわたしはかなり動揺してしまう。


「お望みなら、オレと一緒に食事か風呂か手厚い介抱、どれにする?」


ニッコリとコンテスト用の笑顔で迫られる。わたしがユウキくんを貰うのは決定事項なの?てか風呂はヤバいでしょーが!!このオープンスケベ!

「ど、どれって…」
「タイムアップ」

「ちょっと!!」


慌てるわたしにふっ、と笑うと座るわたしと屈んで目線を同じにする。
目の前でその深紅の瞳が細められた。


「その前に、花嫁姿のななしを見ないとだよな」

ありがちなラブストーリーも、
君となら悪くないとか思ってみたりして。


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