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トレーナーカード発行の手続きの為、ファイアくんと二人でトキワへ向かう。
あの日のように慌ただしくはなく、のんびりとしたペースだ。
前は気にする余裕も無かったけれど、辺りを見渡せば野生のポケモンがちらほらと見える。
「そういえば、ロコンはファイアくんのポケモンなの?」
なんとなく聞く機会が無かった為、聞いてみる。ボールに入れるところを見たことが無いけど、レッドくんのように連れているのかな?
「厳密に言えば違う」
「?、じゃあ、お母さんとか?」
「誰のってわけじゃないよ、小さい頃から一緒だったし。家族って言った方が僕はしっくりくる」
ファイアくんがロコンを見れば、それに嬉しそうに答えて鳴いた。
少し微笑んだファイアくんなんて、かなり貴重なものを見られた。
つられてわたしも笑顔になってしまうほど、二人は信頼しあってるのが分かる。
「旅に出るときはやっぱりロコンを連れていくの?」
「始めは研究所で貰ったポケモンで行くよ。…スタートはあの二人と一緒じゃなきゃ意味ないだろ」
まあ、なんと負けず嫌い。
いつか見たあの瞳。認めさせると言っていたんだ、ファイアくんにとったら二人と同じ場所からスタートしないと納得しないんだろう。
「ロコンが一緒に行ってくれるなら僕はそれが理想だけどね」
やっぱり一番のパートナーなんだ。
勿論と言ったのかな、大きく鳴いたロコン。とても懐いていて、やっぱり幸せそう。
「・・・・」
「どうしたの」
「わたしがポケモンをゲットしてさ、もし…元の世界に戻った時にその子はどうなるのかなって」
残される側を思うと、
拭えない不安。
「ゲットする前から何言ってんの」
「…?」
やれやれと言った様子で。
ファイアくんに視線を向ければ、真っ直ぐ前を見たまま。
「帰った後の心配なんて、ななしはしなくて良いんだよ」
「・・・うん」
どこまでも優しい人達。
ああ、わたしの方が全然…
覚悟なんか出来ちゃいない。
「では、こちらがななしさんのトレーナーカードになります」
「有り難うございます」
旅立つわけではない為手続きはあっという間で、博士に貰った用紙に記入をしたら10分と経たずに手元にやってきたカード。
しかしこう手にしてみても、まだ実感は湧かない。つまりは、レッドくんやグリーンくんのようにポケモントレーナーに部類されるわけで。
「終わったの?」
「ありえないよねぇ…」
「は?」
「う、ううん!何でもない!!」
ポケモンセンターのロビーでソファーに座って待っていたファイアくんとロコンの元まで戻ったけれど、ぼんやりと考えていたせいで大きな独り言を聞かれてしまった。
「さて、じゃあいよいよトキワの森だね!!」
「妙に張り切ってるけど、ななしは別に何もしないからね」
「え?」
「…いや、ポケモン持ってないのにどうやってバトルするんだよ」
あ、そっか…。
わたしってばトレーナーカード持ってるくせに何て役立たずなのか。がっくりとして歩き出したファイアくんの背に続いた。
ポケモンセンターを出て少し歩くと「そうだ」と、何かを思い出したのかファイアくんがその足を止める。
「一応どくけしとか買ってくるからここで待っててよ」
「え、なら一緒に…」
直ぐだから、とそう言い残して走り出して行ってしまった。その後ろ姿を見詰めてはあと一つ溜め息。
「なんだか最近ファイアくんもあの二人に似てきましたねー」
苦笑い混じりでロコンに言えば、当然だけど首を傾げられてしまった。
「さて、どっかその辺に…っっ!!!?」
座って待っていようか、と続くはずだった言葉は、背後からの突然の衝撃に呑み込んでしまった。
誰かがぶつかったというよりは…
腰にぎゅっと回された手。
これは…
抱きつかれてる!?
でででも、誰に??
軽くパニック状態。振り向くのは若干怖かったが、ロコンだって居るし、もし何かあったら全力で逃げよう。
「あ、あの!ちょっと!!」
身をよじってやっと解放された。自由になった身体で振り返る。
― え?
驚きに固まったまま動けなくて、目の前の人物を見つめた後ちらりとロコンと目を合わせる。
困惑した瞳はやはり一緒。
混乱する頭で、確認するようにその名を呼んだ。
「ファイア、くん?」
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