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受話器を置く寸前の思い詰めるような、自分を責めるようなレッドくんの顔が頭から離れない。
応援なんて言っておきながら、そんな顔をさせてしまったのはわたし。


「・・・・」

しばらく電話の前から動けなくて、暗い部屋で光の無くなった画面を何を思う訳でもなく見詰めていた。
外も明るくなってきた頃、思い出したかのように部屋へと戻った。しかし布団に入っても、結局寝られずにそのまま起きてしまったけれど。


朝はいつも通りポケモンの健康チェックのお手伝いをして過ごした。
今日はなんだかぼーっとしてるね、と研究員さんに心配されてしまたったので、普段と変わらないですよとちょっと苦しい笑顔で答えた。

原因なんて、自分でも分かってる。

そうして他の事に没頭していれば、時間が経つのも早くてあっという間に昼過ぎ。客間でファイアくんが来るのを準備して待っていると、研究員さんが部屋へ入って来た。

「どうかしたんですか?」

「ななしちゃんに電話だよ」

ドキリとする。

「…誰からですか?」









「岬はどうだった!」

『第一声がそれかよ』

電話のお相手はグリーンくん。

それに何故だかほっとしてる自分がいた。今はきっと、レッドくんと普通に話せそうもない。情けないけど。


「だって、テレビで見て凄く綺麗だったから!」

『別に、それなりだったぜ?』

「またそういう事言う…」

グリーンくんはわたしが良いと思ってる事には、例え自分が良いと思っていても絶対に同意してくれない。こうして電話をくれるくらい優しいくせに、本当あまのじゃくだ。ニヤリとしている口元がそれを物語っている。

しかし突然、声のトーンも幾らか低く真面目な表情になったグリーンくん。


『…ななしさ、講演会ついて行かなかったんだな』

少しドキリとしつつも、トンっと胸に手を当てちょっと威張るように言ってみた。

「二人の応援という使命があるからね!ここを動く訳には!」

応援、か。
突っ掛かる何かを振り払うように、意識をグリーンくんに集中する。それに二人からの連絡も楽しみにしていて断ったなんて、面と向かっては恥ずかしくて言えないし。


『へぇ、そのわりには岬に興味あるみたいだな?』

「そ、そりゃあ、行く行かないって聞かれたら…行きたいです、けど…」

すぐそうやって意地悪な質問をしてくる。けどなんだか、グリーンくんの雰囲気がいつもと違う気がする。まるで、表だけ取り繕ってるような…この違和感。

気のせい、かな?




『…なら、俺が連れて行ってやってもいいぜ』

あれこれと考えていたら反応が遅れてしまい、伝えられた言葉を理解するのに数秒かかった。

「ほ、本当!?」
『言った事をやり遂げるのがおれさまなんだろ?』
「それ、わたしが言った…」

真面目な表情も一瞬で、また見慣れた悪戯っ子な笑みで聞かれる。しかし改めて本人に言われると、とてつもなく恥ずかしい。
けど嘘じゃない。実際そう思ってる訳で。


「ありがとう!グ、」
「それは楽しみだね」
「ファイアくん!?」

いきなり隣から聞こえた声に顔を向ければ、機嫌の悪そうなファイアくんと目が合った。
あ、そういえば時間…。

「…部屋にいないと思ったら、悠長に電話してるし」
「ごごごめんっ!」

ジトリと、こちらを見下ろすファイアくんのなんとおっかない事!


「グリーンもいいの?早くしないとレッドに先越されちゃうんじゃない?」

お構いなしにファイアくんが画面とわたしの間に割り込んで来る。当然、視界はファイアくんの背中しか見えなくなってしまう。

『一歩進めばポケモン追い回してる奴に先越されるわけないだろ』
「それでななしとデートの約束?余裕だね」
「ファ、ファイアくん!」

背中の服をキュッと掴んで止めに入る。どうしたのかな、今日はやたらグリーンくんに突っ掛かってる。

「こっちはそんな余裕無いからもう切るよ、じゃあねグリーン」

『あ、おい!待てっつーの!まだななしに話があんだよ』

話?なんだろ?
それを聞くと、ファイアくんも電源へと伸ばしかけていた手を止める。てか、本当に切るつもりだったのね。

「…はあ。なるべく早く終わらせてよね」

ゆっくりわたしの前から退くと、先に始めてるからと部屋を出て行ってしまった。ごめんね!とその背に声を掛け、ファイアくんが出て行ったのを見送った後すぐ視線を画面に戻す。


『ななし、…さっきの約束忘れんなよ』

話ってなあに?とこちらが聞くより先に唐突に言われた言葉。さっきの…って、岬に連れて行ってくれるって話だよね?


「もちろん!楽しみに待ってるからね!」

画面の向こうのグリーンくんも、やっぱりいつもと変わらないように見えた。



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