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研究所にファイアくんと戻って来たわたしを、仁王立ちのグリーンくんと落ち着いた様子でソファーに座っているレッドくんがいつもの客間で迎えてくれた。
「あの、」
「ちゃんと話したのかよ」
部屋に足を踏み入れたわたしが、心配かけてごめん…と言う前に真っ先にそう聞いて来たグリーンくん。
すると、わたしが何か言うより先に足を進めたファイアくんが嫌そうに眉を寄せながら言う。
「こっちで解決したんだから、グリーンに言う必要無いだろ」
「ちょっと、」
「ファイア、そういう言い方良くない」
レッドくんも混ざり、目の前で言いたい放題の三人。
何というか…
だから…
「きみらは人の話を聞けー!!」
さっそく
人の話を聞かない。
「心配おかけしました!ファイアくんとは無事に和解しましたので、もう大丈夫ですっ」
「で、結局こいつがキレた原因、」
「よかったな、ななし」
「…おい」
顔をしかめたグリーンくんは気になって仕方ないようで、言葉を遮ったレッドくんを睨みつつ腕を組んでこちらを見た。
いつもとは違い、わたしの隣には不機嫌そうにそっぽを向いてしまっているファイアくんが座り、向かいに座る二人に説明するような形になっている。気のせいだろうか、なんか圧が物凄い。
「ファイアなら、大丈夫だと思ってた」
「じゃあもういいだろ!この話は…」
照れ臭いのだろう、ファイアくんは声を張り上げてそこで話を切った。話してくれるって確信していたみたいだし、本当に全然心配してなかったんだレッドくん。
けれどその余裕な態度が、余計火に油を注いでるみたい。
(本当、素直じゃないなぁ)
さっきまで目標だと語ってたのを思い出すと、尚更そう思ってしまう。
「何ニヤニヤしてんの」
「・・・・はへ?」
ファイアくんの声に顔を向ければ、もうすっかり見慣れてしまった不機嫌な顔が目の前にあった。
「そ、そんな顔してた?」
「してたよ」
しかしニヤニヤとは失礼な。
「本当に素直じゃな、」
慌ててわたしの口を塞いだファイアくんの目はわたしを射殺す気かと思うほど怖かった。余計な事言ってごめんなさい。
「なんだよファイア」
「・・・?」
もちろん不思議に思った二人からは疑問の声。
口を覆っているファイアくんの両手を掴んで退かすと、わたしも慌てて答える。
「な、何でもないよ!!」
「・・・はあ、やっぱ話さなきゃ良かった」
「なんだよ、なんか隠してんだろ」
「人の話を聞かないグリーンに、僕を説教する資格はないって話だよ!」
「んだと!!」
確かにさっきそれも話したけれど。
「じゃあ、僕は帰るから!」
言い合いの後、掴んだままだったわたしの手を退けると、すくっと立ち上がった。
目の前に二人がいるからなのか、丘でわたしと話していた時と違って全然余裕のないファイアくん。
小さく手を合わせてごめんねと言えば、かなり呆れ気味だけど(いいよ…)と、同じく小さい返事をくれた。でも、等身大のファイアくんが見れてちょっと嬉しかったり、とはわたしの勝手な気持ちだけど。
「確かにもう帰んねぇとだな。ななし!明日はきっちりやるぜ!」
「う、うん!」
外はもう暗くなりはじめていて、今日出来なかった分の勉強をやると張り切っているグリーンくん。
「ななし」
「?、なあに?」
改まってファイアくんに呼ばれ視線を向ければ、昨日の態勢。
ファイアくんは立っていて、わたしは座ったまま。
しかし違うのはその瞳。
睨みつけるような眼光はどこにもなくて、まだ記憶に新しい挑戦的なあの瞳。
「僕も明日からここ、来るから」
「え?」
「それじゃ」
これもまた昨日のようで、唖然とする私達をそのままに言うだけ言ってファイアくんは部屋から出ていってしまった。
「なんだよあいつ!…じゃあな!ななし!」
それを追い掛けるようにして出ていってしまったグリーンくん。
わたしとレッドくんだけが残された部屋は突然しん、と静まり返ってしまう。
沈黙を破ったのはわたし。
「あ、その…レッドくんも、ありがとうね」
「・・・・・」
ファイアくんに聞いた昨日の事と今日の事を含めてお礼を言ったけれど、ナナミさんと初めて会った時のように喋らなくなってしまったレッドくん。元々口数が多いわけでもないけど。
またお腹が空いてるのかな、と思ったけれど今回はどうやら違うみたい。微かだけど、視線を下に難しそうな顔をしているレッドくんは何か悩んでいるようにも見える。
「・・・・」
「・・・・?」
ふと目があった。
すると、立ち上がってすたすたとわたしの傍へやって来ると、背もたれに手をかけ急に距離を縮めて瞳を覗き込んできた。
ち、近っ!!
レッドくんの腕が両方にあるせいで身動きがとれないし、レッドくんと精一杯距離を取ろうと背を伸ばすけれどまったく無意味だった。
「どどどど、どうしたの?レッドくん」
「ずっと、」
「・・・?」
様子が変だと疑問を浮かべてレッドくんを見たけれど、結局何を考えているのか分からなかった。
「なんでも、ない」
そう言うと、わたしの隣にすとんと力なく腰を下ろした。そのまま俯くとそれっきり黙り込んでまったレッドくん。
何だろう、心此処にあらずと言った感じだ。
もうお互い会話するには不自由ない距離。
でも、レッドくんが珍しく何かを言いづらそうにしている。
「…三日後」
トクントクンと、
鼓動が速くなる
「旅に出る」
薄暗い部屋は、時が止まってしまったように静かだ。
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