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ここの生活にもそれなりに馴れてきて、掃除以外に研究所の手伝いも少しずつだけど出来るようになってきていた。
朝にはポケモンの健康チェックを手伝う毎日。

とは言っても助手さんに言われた診断結果なんかを記録するだけなんだけど。
それでも多くのポケモンと触れ合うのは楽しくて、時間が過ぎるのはあっという間だった。

「ななしくん、そろそろ二人が来る時間じゃろう?こちらは大丈夫だから行ってきなさい」

言われて時計を見れば、針は真上より少し進んだ場所を指している。
レッドくんとグリーンくんも、研究所のポケモンを観察しに来たりしているけど、わたしがここに馴れてきたと感じたのか朝一に来ることは少なくなった。
一緒にいれば喧嘩する二人を止めるのも大変だけど…

(ちょっと寂しかったりもする)

午後には約束通り勉強会をやってもらっているので、博士に一声かけてから準備に向かった。








「おっせーよななし」

客間のドアを開ければ、もう座って待っていたらしいグリーンくんがこちらに視線を向ける。

「グリーンくん相変わらず早いね」
「おれさまは遅刻なんてかっこわりー事しねーの」

あぁ、確実にここにいない彼に向けて言ってるよね。

「レッドくんはまたポケモン追っかけてるのかなぁ…」
「さあな」

勉強会を始めて早数日、レッドくんは毎日のようにポケモンを探しに森に出かけてるみたいで、勉強会へは遅れて来たりも度々あった。
森でわたしと初めて会った日も、ポケモンを探していたみたい。で、期待に胸膨らませて確認したらわたしという人間さんだったから落胆したと。なんて勝手な話だ。


「んなことより!昨日やったとこの続きからやるぜ」

ノートと本を広げるとわたしの前に並べる。
半分以上は文字で埋まったノート、わたしのポケモンに関する知識もかなりのものになったと思う。
最初に比べたらだけど…。


「二人のおかげでだいぶ覚えてきたよ」

「教え方が良いからな!」

…自分でこうゆう事言わなければ素直に感謝出来るのに。
でも毎日こうして教えに来てくれている二人には頭が上がらないし、悔しいが本当にその通りだった。
いつもは照れくさくて言えないけど、珍しくわたしはグリーンくんに素直にお礼を言った。

「うん、感謝してるよ…ありがとう」
「・・・・」

ポカンとこちらを見たまま固まってしまったグリーンくん。

「ど、どうしたの?」
「…なんでもねえよ!!」

えぇぇ!?
なんでお礼言ったのに怒鳴られなきゃなんないんだろ。



喧嘩がないだけで、時計の針の進む音が聞こえるくらい静かな部屋。
グリーンくんはなんだか難しそうな本を読み、その横でわたしはノートに要点を書き込んでいく。
たまに質問をしたりの会話くらい、もう何回か経験している空間だけど不思議と居心地は悪くなかった。



―ガチャリ…


ドアの開く音にノートからドアへと顔を向け、グリーンくんも本から顔を上げた。
隙間からちらりと見えた赤。


「あ!レッドくんやっと来…」

声は全部言い終わらないまま小さく消えていった。
部屋へ入ってきたのは確かに赤い服を着た少年。けれどわたしが思っていた人物ではなかった。

「え、っと…」

「・・・・誰」

突然の見知らぬ訪問者にあたふたとするわたし。
と、とりあえずあいさつした方が良いよね。


「あれ、ファイアじゃん」

わたしが言うより先に、グリーンくんの声が部屋に響いた。

この子がファイアくん?
グリーンくんをちらりと見てから、ファイアくんはまたわたしに視線を戻す。

「…え、あ!はじめまして、わたしはななし。いま研究所に住み込みでお世話になってます、よろしくね」
「そう…」

大して興味もなさそうな反応。
最終的にはこちらを見てもくれてない。

「いつ帰ってきたんだよ!」
「今日だけど?そんな騒ぐことじゃないだろ」

そっか、いままで他の地方に行ってたんだよね。

淡々と答える様子は、なんとなくレッドくんみたいだけど…、なんだかトゲトゲとした雰囲気にたじろいでしまう。

鋭く射抜くような赤色に、
無意識に優しい赤色を探していた。



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