「不動、まだ起きているか」


世界大会の決勝を終えて、いよいよ明日は日本に帰るという夜。月が綺麗だというのを言い訳に遅くまで起きていると、控えめにドアをノックするアイツの声。(やっぱり来た。予想通りだ)


「開いてるから入って来いよ」


わざと間を開けて返事をすると、静かに開けられたドアから恐る恐るといった様子で中に入って来る鬼道の姿にオレは目を細めた。不安と焦燥が入り混じった表情を浮かべてドアの前から動かない鬼道に歩み寄る。鬼道がはっと息を呑んだのが分かった。


「そんな所に立ってねーで、入って来りゃ良いじゃん」

「あ、ああ…」


オレが話し掛けても緊張の表情を崩さない鬼道に噴き出しそうになるのを堪えて、さっきまで座っていたベッドにまた腰掛ける。鬼道も戸惑いながらオレの隣に腰掛けた。二人分の重みに軋むベッドの音と二人分の呼吸の音以外のない室内は酷く静かだった。


「で?」

「な、何だ」

「何か用が有って来たんじゃないの」


膝に頬杖をついて鬼道の顔を見れば、鬼道は一瞬だけ目を逸らしてオレに向き直った。ゴーグルに隠れて目は見えないのに、何故だか射抜かれているような強さを感じた。


「不動、オレはお前が好きだ」


はっきりとした口調で述べられた言葉に先程までの緊張は微塵も感じられない。まぁ、その言葉自体はもう何度も言われた言葉ではあるのだが。真剣な表情で言われればさすがのオレも茶化す事も出来ない。頬杖を止めて背筋を伸ばせば、手を引かれてベッドに押し倒された。


「あれ、好きって…そういう意味?」

「ち、違う…だが、やはり好きな相手とは、こういう事もしたい」


オレを見下ろす鬼道をからかうと、照れたように顔を赤らめて鬼道が顔を近付けてくる。相変わらず、ウブだなぁ。なんて心の中で微笑ましくさえ思いながら、鬼道のゴーグルに手を掛ける。もうこれを外す作業には慣れた。すんなりと外れたゴーグルから赤い吊り上がった目が現れる。


「恥ずかしいからってゴーグル外さないでするつもりかよ」

「そ、そういう訳では…」


取ったゴーグルを目の前でちらつかせると、鬼道は動揺したように目を逸らした。オレはフンと鼻を鳴らして、鬼道の隙を突いて鬼道を押し倒した。驚いたように目を見開いてオレを見上げる鬼道に目を細めて、見せつけるようにゴーグルに口付けてやる。


「こんなモン付けて…キスなんかしてやらねーよ」


そう言ってゴーグルを床に放ると、鬼道に口付けてやった。鬼道は見開いていた目を徐々に元に戻してオレの頬に手を添えた。やっと緊張が解けたらしい。舌を差し出せば、すぐに絡め取られて吸い上げられる。


「んっ、ふ…」

「…不動」


甘ったるい息が洩れると、鬼道が目をギラギラさせて腰に腕を回して抱き締めてきた。そんなにがっちりホールドしなくても逃げやしねぇっての。くちゅくちゅと厭らしく水音が室内に響いて、頭がボーッとしてくる。こんな、甘ったるいキス位でこれかよ。


「不動っ…もう、触って良いか…?」


不意に鬼道が唇を離したかと思うと、またぐるりと視界が反転する。余裕のない顔で尋ねてくる鬼道が可愛く見えて、唇の端から垂れたどちらのものとも取れない唾液を首を伸ばして舐め取って耳元に唇を寄せる。鬼道の形の良い耳に口付けながら、どうぞ御自由にと囁いてやった。


「本当に白いな…」

「っ…お前だって、そんなに変わんねぇ…だろ、」


喋っていないとすぐに理性も何もかも持っていかれそうで、減らず口を叩きながら鬼道の手が体を這うのを受け入れた。擽ったいのと気持ち良いのが混ざったような感覚に体が震える。まぁオレだって、こう見えて下になるのは初めてだからそれなりに緊張もする訳で。パジャマ代わりのハーフパンツに手を入れられて、下着の上から自身を撫でられるだけで何だか興奮してしまう自分に顔が熱くなった。鬼道は、もう一度触って良いかと尋ねてきた。一々聞くなよと照れ隠しにもならない返答をすれば、下着の中に鬼道の手が入ってくる。ああ、ヤバい。セックスってこんなにドキドキするモンなのか。今までAV見たって女に誘われたってこんなに興奮した事なかったけど。


「っ、ぁ…」

「不動…お前の声が、聞きたい」


扱かれて思わず洩れそうになる声を手で口を抑えて堪えれば、鬼道は耳元で無理な相談をしてくる。隣で寝てるヤツ居るって分かってんだろ。それでもお前の声が聞きたい。押し問答をする内に、下着が湿る位先走りが漏れて自身が熱くなっているのが分かった。


「ハァ…も、やば…っ」

「出したいなら、声を聞かせてくれ」


昂ぶった自身を解放する前に、鬼道は手を止めて空いている手でオレの手首を緩く握った。ちくしょう、しつこいヤツめ。オレは荒い息を吐きながら手を口から離した。すると、鬼道はその手に自らの手を絡めて握ってきた。ああもう、一々恥ずかしいんだよ…ばか。


「不動…」

「んん…うあ、あっ、あ――…!」


蓋がなくなった口からはオレの声じゃねぇみたいな高い声が出て死ぬ程恥ずかしかった。でも、イく寸前に口付けられて、堪え切れなくなった一際大きいだろう喘ぎ声は鬼道の口に吸い込まれていった。眩暈に似た感覚を覚えれば、下着と鬼道の手を濡らすオレの出したものの感触に身震いした。


「そ…その、脱がせ」

「だからっ、一々聞くなっつってんだろ…」


オレのを握ったまま躊躇いがちに尋ねられても困るので、先に答えてやる。鬼道は恐る恐るオレのハーフパンツを下着ごと下ろした。濡れてしまって着ていても邪魔になるので足を上げて鬼道に全部脱がせて貰う。鬼道は可哀相な位顔を赤くしていた。


「そんなんで、最後まで出来んの…?鬼道ちゃん」

「ば、馬鹿にするなっ」


思わずからかえば、ムッとしてすぐさま否定の言葉が飛んでくる。あの鬼道有人が、こんなに動揺しているのを誰が見た事が有るだろうか。そんな顔はオレだけにしか見せないで欲しいと思う、なんて。オレもすっかり絆されちまったんだなぁ。


「痛かったら言うんだぞ…?」







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