雷門からここに転入してきた時は、幾らオレでも不安だったさ。三年のこの時期に新しい環境に入って、上手くやっていけるのかとか、フィフスセクターの影響を強く受けてるサッカー部に入ったからって自分が思う通りのサッカーが出来るのかとか…まぁ成績に関しては何の不安もなかったけどね。


「雷門中から来ました、三年の南沢篤志です。ポジションはFWで…」

「おおっ雷門の優秀なストライカーか!これは心強い味方が出来たぞ!皆の者、新たな仲間を盛大に迎えよ!」

「おおーっ!」

(…何なのコイツら…)


転入初日、部活に顔を出したらまぁ盛大に迎えて貰えはしたもののフィフスセクターの管理下に置かれているのは確かだった。よそよそしい部員と部員の距離感。恐らく、シードとそうではないものとの微妙な差異。練習も、雷門とはまるで違う。シードと、シード以外のメニューとで分かれているのだ。表面上で、和気藹々として見えても、実際はこんなものか。いや、これがオレが求めてきた形式か。だけど、一つだけ違ったのは、兵頭司。二年でポジションはGK、そして月山国光のキャプテン。


「南沢!」

「ん?ああ…お前、年上を呼び捨てかよ」


練習終了後、大きな体で駆け寄ってくる兵頭にびくりと思わず肩を震わせた。意地の悪い切り返しをするも、兵頭ははてと首を傾げて月山国光では友好をはかる為に年齢はあまり気にせず皆苗字で呼び合っているのだと返される。


「すまぬ、気分を害したか?」

「あー…もう良いや、好きに呼んでよ。キャプテンさん?」


トンと胸を人差し指で軽く突くと、兵頭は見る見る内に顔を赤くした。思わず目を瞬かせたオレに、兵頭は「御免!」と慌てて去っていった。何なんだ。まぁ、あのお堅い侍みたいな連中に比べたら可愛げがあるのかと思う事にしよう。帰宅しようと部室で着替えていれば、不意に後ろから嫌な笑い声が聞こえた。


「貴様が新参の部員か?」

「随分と細身だが…そのような脆弱な体で我らに付いて来れるのかのう」


コイツらシードだ。それもあまり関わらない方が良いタイプの。雰囲気でそう感じた。オレは手早く着替えを済ませて、聞こえなかったフリをして帰ろうとする。しかし、それが気に食わなかったのか前後に立ち塞がられた。やれやれ、転入早々面倒事に巻き込まれるなんて勘弁して欲しいぜ…。


「貴様、新参の癖に生意気ぞ」

「我らに挨拶の一言くらい申したら如何か?」

「…その胡散臭い喋り方、やめたら?」


茶化すように告げれば、ヤツらは表情を歪ませてロッカーにオレの肩を押し付けた。やっぱりな、無理にこの環境に合わせて憂さ晴らししたいってのが見え見え。浅はかだ。見下したような目でそいつらを見つめれば、前髪を鷲掴もうと伸びる手。痛みが襲うのを予想して構えているも、その痛みが訪れる事はなかった。


「やめぬか。南沢は貴様らにそのような事をされる謂れはないであろう。」

「っ…チッ!離せ!」


ぎりぎりとオレに伸ばされた手を掴む兵頭に、シード二人は悔しげにしながら腕を振り払って立ち去った。ぽかんとしているオレを見て、兵頭は恐々といった様子で肩に触れて大丈夫かと問い掛けてきた。眉を下げて心配そうに顔を覗き込む姿に思わず笑みが洩れた。その手と表情は酷く優しい。背伸びをして兵頭の頭をぽんと撫でると、兵頭はまた顔を赤くした。


「き、気を付けて帰られよ…」

「ねぇ、オレのボディーガードになってよ。またあういうのに絡まれたら嫌だからさ。」

「!?だ、男児たるもの己の身は己で」

「じゃあ、オレがアイツらに良いようにされても良いの?」


わざとらしく目を潤ませて兵頭を見上げれば、うっと言葉を詰まらせた。ダメ?と追い討ちを掛けるように俯けば、兵頭は慣れていない手つきで頭を撫でて致し仕方ないと吐息を洩らす。オレは顔を上げてとびきりの笑顔を向ける。兵頭はまた顔を赤くしていた。






不器用と優しさのあいだ
(この時は、まだ兵頭の事を好きになるなんて考えもしなかった)
(この男の、不器用な癖に優しくしようとするそれに)




title by hmr

***

だいぶ遅刻しましたが…兵南の日もおめでとう!






mae|novel

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -