最初はすごく嫌なヤツだった。協調性の欠片もなくて、いつも人を見下した風な態度で、オレの事だって馬鹿にしてきて。絶対仲良くなれないタイプだと思ってた。でも、″破れ鍋に綴じ蓋″って諺があるように、オレと彼はその実似た者同士だったのだ。


「うっわ、もうこんな時間だ…!そろそろ戻って寝ない、と…?」


グラウンドで一人遅くまで練習をして、片付けを終えた頃には辺りはすっかり闇に包まれていた。普段は人がたくさん居る所に夜一人で居ると、何だか不気味ささえ感じる。オレは早く宿舎に戻ってシャワーを浴びて寝ようと思ったが、宿舎の裏の方で何か物音がした気がした。まさかお化け…いやいや、この科学の発達した時代にそんな馬鹿な。とか自分を納得させる。こういう時、ホラー映画だと怖いもの見たさでそこを見てしまって…っていう展開が普通だけど、まぁオレは泥棒とかだったら大変だと思って壁から少しだけ顔を出して覗いてみた訳で。


(!あ、あれは…)


そこには、お化けでも泥棒でもなくチームメイトの不動くんの姿があった。木の一点に向けてボールを蹴り込むあんな必死な表情は、初めて見た。木の表面は抉れて凹んでいる。どれだけの回数蹴り込めば、あんな風になるんだろう。オレは気付いたら、身を乗り出してそれを見入ってしまっていた。


「…なぁ、寝なくて良い訳?」

「へっ!?あ、あのっええと…」


不意に話し掛けられて思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。すると、不動くんは汗を拭いながらフッと柔らかく笑ったんだ。いつもの人を小馬鹿にしたような笑顔じゃなくて、純粋な笑顔。オレは何だかその笑顔から目が離せなくなって、そうしたら不動くんが次第に肩を震わせて抱腹して笑い始めるものだから…。


「なっ何でそんなに笑うの!」

「だってお前っ…くく、すっげー間抜けな顔してんだもんよ…」


涙を浮かべて笑う不動くんに段々恥ずかしくなって、オレは顔が熱くなった。一頻り笑った不動くんは、じゃあなとボールを抱えてオレの横を通り過ぎるようにして宿舎に入って行ってしまった。オレはまだ火照ったままの頬の熱を冷ます為に、慌てて水道へ走った。


「……何で居んの」

「え、何でって…一緒に練習しようと思ってさ」

「はぁ?どういう風の吹き回しだよ」


変なヤツ、って笑う不動くんはまたあの柔らかい笑顔だ。ああ、何だろう。すごく嬉しい。あんなに不動くんの事を嫌いだったのに、一緒に練習をするようになって。不動くんのアドバイスは言い方はちょっとキツいけどすごく的確で。練習でそれを活かして、新しい必殺技を習得して。遇に不動くんと世間話なんかしちゃって。不動くんと練習するようになった毎日は、すごく充実したものになっていったんだ。


「ふーどーうくん!今日は…って、あれ?居ないや」


いつものように全体練習を終えて、風呂に入って夕食を食べてから二人の練習場所に向かったら、いつも先に来ている不動くんが居なかった。少し待ってみたけど、来る気配はなくて。何だか一人だとやる気も出なくて、部屋に戻ろうと思った。階段を上がって部屋に向かうと、ドアの前に誰か座っているのが見えた。暗くて誰か最初分からなかったが、近付いてみたらそれは膝を抱えた不動くんだった。オレはびっくりして慌てて駆け寄った。膝に顔を埋めた不動くんが徐に顔を上げる。不動くんの大きい目は濡れて、頬には涙の痕があった。オレは何が何だか分からないまま、不動くんの手を引いて部屋に入った。


「不動くん、水…」

「…悪い」


ベッドに座ってもどこかボーッとした様子の不動くんに、オレは掛ける言葉が見つからなかった。こんな不動くんを見るのは初めてだ。普段皆の前で見せる強気な表情ともオレと二人の時に見せる柔らかい表情とも違う。ただただ弱々しくて、今にも消えてしまいそうな程儚い。


「今日の試合も」

「えっ」

「ベンチだった。交代でさえ飛鷹だ」

「あ、ああ…」


ぽつぽつと話し始める不動くんの目は虚ろだった。今日は砂木沼さん達ネオジャパンとの練習試合があったんだ。そこでオレは完成させた必殺技を披露した訳だが、不動くんは今日もずっとベンチだった。監督も、不動くんの実力は認めている筈なのに。


「それだけなら良かったんだけどよ」

「うん…?」

「お袋から電話があって、さ」


家差し押さえられそうなんだって、と言って不動くんは俯いた。その横顔があまりにも悲痛そうで、オレは堪らなくなって。気付いたら手を伸ばして不動くんを抱き締めていた。不動くんの頭を抱えるようにして抱き締めると、怖ず怖ずと背中に回された腕と、小刻みに震える体。オレはこうして傍に居て抱き締めてあげる事しか出来ない。それでも、不動くんが少しでも救われてくれれば良い。


「…突然、悪かった…こんな、」

「良いよ。オレがしたかったんだから。それに…」

「それに?」

「不動くんには笑ってて欲しい。不動くん、笑顔の方が可愛いもん」

「!…おま、馬鹿じゃねぇの…」


そう言って赤くなる不動くんも、実に可愛らしかったのでした!






恋に堕ちた日
「あほ抹茶ソフトが…」
「あっそうやって馬鹿にするなら…オレの部屋に来て泣いた事バラしちゃうぞ?」
「なっ!テメェ、!」
「だ・か・ら、オレと付き合ってね!」
「脅しかよ…」
「失礼な!ちゃんと不動くんの事すきなんですけど!」






***

緑不は似た者同士な感じ。そしてとうとうあきおが緑川を最後まで名前で呼ばなかった、だと…?(ざわ)
内容をリクエストして頂いてないヤツは完全に私が書きたいものを書き殴っちゃってるんですがこんなん要らん!という場合にはどんどん言って下さいませ。
リクエストありがとうございました!







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -