Serie | ナノ


―――狐の子は狐。
狸の子は狸。では、謎解きの子は・・・・・・・・・。

「・・・また、謎解きだろうよ」


ふわり、紫煙が揺れる。咥えた細長い先からも、口の端から零れたそれも。同じ様に濃紺へ溶け失せた。
大木に腰掛け、久しく燻らせること暫し。角の先、軽い足音が聞こえたならば、見覚えのある影が伸びる。時刻は丑三つ時―――こんな時間までなど、随分な遊びだこと。

眼下に姿を現わしたのは、小さな童子。
・・・・・・が、何やら様子がおかしい。まるで猫に急き立てられる子鼠のよう。

「ふむ、」

ちりちりと毛が泡立つ。この感覚に覚えは間々ある。まろぶ様に駆ける坊の後ろ、灯の当たらぬ陰に血の臭い。是れは、ぬばたまの黒に潜むモノに狙われたか。
このままではいささか、否、確実に喰われるだろう。・・・・・・詰めた煙草も燃え尽きた、か。


「―――好い夜だとは思わぬか?」
「?!!っくそ!」

目の前に降り立てば悪態を吐かれた。解せぬ。

「どけっ!!邪魔だっ」
「・・・だが、坊よ。何処へ行く?」
「とりあえず逃げっるきゃねえんだ、よっ!!」

会話さえ惜しいのか、腕時計とやらから飛来物。細長い・・・針、か?
首を傾けることで避け、腕を掴む。ほう・・・?よくよく観察してみれば中々面妖な玩具だ。

「っ放せ!!!」
「否、今放せば―――アレの腹の中ぞ?」
「?!?!?!」

坊には背面だから見えなんだも知れんが。
親切に指差して見やれば、そちらを向いた坊の面白いこと。真っ青な顔で声無き声を発しよった。
眼前に迫りくる、おおよそ科学的に証明出来そうもない、ずらりと並んだしゃれこうべのあぎと。恐怖で固まった坊をこちら側に引けば、間一髪で閉じられた。

「呵呵!しかと捕まって居れよ」
「っわ!」

その勢いのまま坊を抱き上げる。ふむ、このくらいなら片腕でも有り余るな。

「え、は、何が・・・・・・っ!」
「・・・ほう、来るかえ?」

混乱する坊を余所に、獲物を取られたと髑髏は怒りでガチガチと歯が鳴っておる。何十と鳴れば、騒音にもなろう。坊も五月蠅そうに眉を寄せている。吾も不快だ。

「、狐火」
「!!」

吾らの周りに灯りが燈る。何十と、何百と、浮遊する炎は熱くない。それが不思議なのだろう、坊はきょろきょろと見回して唖然としている。そのような顔なれば、年相応と云うものよ。

「『滅せ』」

言霊に導かれるように。ふわり、ふわりと灯がしゃれこうべへと向かって行く。恐れをなしたのか、先とは違った意味でガタガタと鳴っているモノ達は我先にと逃げようとして、止まった。

「―――逃がすかの?」

にっこりと、笑みを湛えて。
妖気をほんの少し漏らしただけで、動けなくなる弱小が。

「恐れた時点で、主らの負けじゃ」

炎に焼かれて、跡形もなく消えていった。
其れを見やりつつ、腕の坊へ目を向ければ。

「おや?」

精力を使い果たしたのか、気を失のうていた。
―――まあ、謎解きになぞ中々受け入れられぬ、か。


「おやすみ、坊」

少し暖かいその身は、思ったより重たかった。

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