domani | ナノ



  人魚姫の隠し事


商店街をブラブラしつつ帰宅していたら、前方にとても見覚えのある白衣が在った。ゆるっとした態度に、年齢構わず女性へアプローチする奔放さに、懐かしさが込み上げる。

「おーい、シャマルー」
「あぁ?ヤローはどっか行け……ってケツァールか!」
「ひどいなあ…。まあ、相変わらずだね。元気にしてた?」
「まあな、いつも通り女の子はどんな子でもカワイイぞ。つーか―――ウワサは本当だったんだな」

近況を報告しつつ、シャマルに伴って歩く。てか、コイツどこに行くんだ?こっちは並盛中学校の道だぞ?
と、聞こえ得た単語に首を傾げる。……噂…とな?

「ケツァールがGiappone(日本)に居るってヤツ。本当だったんだな」
「ああ、そのこと。―――ボンゴレの10代目候補が日本人なのは知ってるよな?」
「ああ、さっきリボーンに呼ばれてな。顔も見てきたぞ」
「あの子、俺の弟」
「は?」

あ、隣が固まった。目をひん剥いてこれでもかとこちらを凝視してくる。やめろ、おっさんに見つめられても嬉しくない。

「ボンゴレと…兄弟……?」
「うん、可愛かっただろ?」
「いやいやいや、待て待て待て!百歩譲って兄弟なのは理解した。が!カワイイのは女の子だけだ!!」
「そう?女の子とはまた違った可愛さがあるんだけどなー」

隣の視線がお前の目は正常か!?と訴えかけていた。
本当に可愛いんだよ?うちの弟は。

いつの間にか、中学校の裏口に来ていた。
校舎を覆う塀が夕陽に照らされ影になり、門戸は狭狭しく寂れ、景観の為か環境の為か樹木が生い茂り更に色を濃く暗くしていた。

「まあ、そういう訳でココに居るんだよ」
「成る程な。ボンゴレも―――知ってんのか?」

俺がケツァールだということ?
ボンゴレファミリーの一員だということ?
四方から漏れ聞こえる死を招く者のこと?

「ううん、知らない」

重くのし掛かる殺意の中、隣で無意識に懐へと伸びる手を遮って。どこからともなく聞こえる羽ばたきに、彼は肩を竦めて見せた。
夕焼けに負けないくらい綺麗なアカが舞う。火の粉を靡かせて、指も、髪も、呼吸一つすら残さずに。溢れていた殺気は霧散して、平穏というただの通学路が戻る。

そこに伸びた影は、先程までとは変化していた。二人分から、揺らめく何かを増して3つ分へ。

「いつ見ても美しいな」

称賛の口笛に、視線だけで返答する姿に笑う。
頭部も、首も、翼も、たなびく尾も、嘴ですらも炎で出来た鳥。それが俺の武器であり、『わたし』が求めた強さ。喩えこの身に枷を着けられたとしても、守るべきものの為の相棒。右肩の重みが心地良い。―――炎なのに重さを感じるのは摩訶不思議なのだけど。なんて思っていたのが顔に出ていたみたいで。
炎が一振り、降りかかった。

「っあつ!ゴメンって」
「ん?機嫌を損ねたな?」
「ったくもー、すぐ怒るんだから……ってゴメンってば!地味に熱いから!あっつ!!」

シャマルにからかわれつつ、頬を突く嘴から避難する。が、段々体温?熱?炎の温度が上昇している。ちょ、おま、シャマル!なにそっと距離取ってるんだよ。
そりゃ、触れただけでさっきまでの人と同じ末路を辿るけどさ。塵も残さずもやし尽くすけどさ。それは俺が定めた相手だけだし、その辺はコイツもちゃんと解ってるっつーの。

地獄の炎。灰すら残さない炎鳥。―――Quetzal del Purgatorio(煉獄の死告鳥)
あの子は知らない。知らなくていいよ、こんなこと。

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