domani | ナノ



  弟から見た兄。


オレには兄が居る。
何をしてもダメダメで、弱気で、入学当初は友人が一人も居なかったオレとは間逆の―――勉強もスポーツも、料理や洗濯まで何でも出来る、カッコよくて、優しいナマエ兄ちゃん。
身内のひいき目なしに見ても、整った顔立ちと柔らかな夕暮れ色の瞳。サラサラの一番長いところは肩甲骨まで伸びた金の髪が綺麗で。ただ、身長はオレから見れば高いけど、獄寺くんや山本と比べれば低いかな?(……兄ちゃんには言わないけど。)


そんな自慢なナマエ兄ちゃんは、なぜかオレに甘くて。
宿題で解らないところがあれば、根気強くオレが理解するまで教えてくれる。おやつがオレの好きなものだったりすると、何かと理由を付けて必ず譲ってくれる。オレの拙い話を最後まで聞いて、喜んだり悲しんだりしてくれる。―――最近は獄寺くんや山本のおかげで学校が楽しいと言えば、自分の事のように喜んでくれた。

ナマエ兄ちゃんはオレのこといくつだと思ってるんだろう?
そりゃ、10年も離れてたから小さい頃のオレしか知らないだろうけど。―――オレも10年ぶりに再会した時、驚いた。母さんや写真でオレに兄ちゃんが居ることは知ってたけど、記憶にはうっすらとしか残ってなかった。
だから玄関先で、すごく綺麗な人が突然兄だと言い出して。最初は驚いて、けど納得した。どこかで『兄』だと解ってたから。オレの全身が、会いたかったって叫んでたんだ。


それから兄ちゃんは並盛高校に通って、友達も出来て(この前商店街で楽しそうに話してるのを見かけた)、たまに居なくなったり。
朝早くから出ている日もあれば、帰りが夜遅い日もある。そんな日に限って、(認めてないけど)オレの家庭教師様に関わるハタ迷惑な客が来るから助かってるんだけど…。
一度、気になってどこに行っているのか尋ねれば、「高校生にもなれば………内緒」とウィンク付きで言われた。その様が似合ってたから何も言えず、そのまま。
―――ちょっとだけ不安なんだ。急に『また』会えなくなるんじゃないか、って。ふとした時に、兄ちゃんがどこか遠くの人みたいに見える。その時の雰囲気が、ナマエ兄ちゃんだけど、兄ちゃんじゃない。オレと離れていた10年の間に、何があったの?そう聞きたいのに、聞けないのは……怖いから。どこかで警鐘が鳴ってる。聞けば戻れないから。けれど、そのまま目を逸らし続けるのも無理なんだ、って。

「……気になるのか?」
「リボーン………」

オレのあやふやな心配事を、飛行機で偶然一緒だったという家庭教師は見抜いていた。

「聞けばいいじゃねーか。お前の質問にはキチンと答えてくれるだろ?」
「でも……」
「ダメツナが―――…アイツだって待ってるんだ」
「え?何か言った??」
「…だから、ダメツナなんだぞ」

溜息とともにダメツナって言われた。へこむ。ちょっと聞き取れなかっただけじゃんか。

「ただいまー。ツナー?」

玄関からオレを呼ぶ、この数カ月で聞き慣れた声がする。

「兄ちゃんだ!……おかえりー!!」

今はまだ、『こたえ』なんて必要ないから。

―――もう少しだけ。
カッコよくて、優しくて、オレにちょっと甘い、大好きなお兄ちゃんで、居て。

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