真夜中に食べるラーメンはおいしい話
歩と永句



 今日のごはんはカップラーメン。
 泊まるほどじゃないけど打ち上げに出たらタクシーの深夜料金を計算しないといけない、それくらいの場所でライブがあった。打ち上げに出なくても帰りは夜中1時。歩もわたしも電車のなかでずっと寝てたから、コンビニではちょっとぼんやりしてた。
 ギターケースを背負ったまま、台所で一度止まってケトルのスイッチを入れる。それから部屋にいってケースをおろす、歩はもう二人分のカップラーメンを開けてかやくをいれていた。「ありがとう歩」「どういたしまして。たいしたことしてないけど」「ふふ」コンビニで普段買わないものを選ぶのって、結構楽しい。歩に逢うまで知らなかった。
 わたしは期間限定の特製しょうゆラーメンにした。歩はオーソドックスな塩。「添えられてるのなに? ふりかけ?」「いりごま」「えっ、いいな」「醤油ラーメンに?」「あ、そうだね……うーん」
 歩にごはんを食べてもらうのも好きだけど、こうやって一緒に即席のものを食べるのも好き。
 カチン、とケトルが声をあげる。

「お湯わいた?」
「うん。わいた」

 2つのラーメンを両手に持って、台所に向かう歩のあとを追う。歩がお湯を入れて、わたしはタイマーのボタンを押す。ふたりとも3分、ズレが無いのはいいこと!「オトがこういうフタとめんのにピック使ってたことある」「それ、兄さんもある」「まじかよギタボしょうもねえな」「響はきっとないよ」「俺もそれは思う」お湯に浮いたかやくがふよふよ泳ぐ。フタをそっと閉じて、箸をのせた。
 歩は自分のにもお湯を注いでいく。外の音もなければテレビもついていない、ふたりでお湯が入っていくラーメンを眺めているだけ。
 静かだけど、全然寂しくない。

「……わたしね。小さい頃、カップラーメンのお湯をフタぎりぎりまで入れたことあって。初めて作ったときなんだけど」
「溢れるじゃん」
「そう、だからこぼさないようがんばって持って行ったら、おかあさん大笑いしちゃって。おとうさんと同じねって」
「もしかしておとうさんも溢れてた?」
「ふたりが同棲し始めたころ、同じことしたんだって」
「カップラーメン食べたことなかったのかよ」
「そうみたい。今は作れるよ」
「それはそうだろうけど」

 わたしは小さいころ失敗しておいたから、歩とラーメン食べるときに間違えなくて済むなって、思ったの。
 わたしのあんまり面白くない話にも、歩はやんわり微笑んでいてくれた。ほとんど変わらない高さにある視線、喉。横顔が好きだ。この人のことならなんでも好きだ。この人に伝えられてる感情なんてほんの一部でしかない。わたしの世界の内側は、全部この人のためにある。
 歌を、音をいくら尽くしても、この人への気持ちだけは奏できれないままだろう。死んでも伝えきれない、でもいつかこんな夜のことを歌いたい。
 月や星を見なくても、夜の風が冷たいことを考えなくても、台所の白い光にあてられたカップラーメンの湯気だけで幸せになれること。

「夜中のカップラーメンっておいしいよね」
「夜中のポテチ理論だな」
「歩と食べてるのもある」
「それはうれしい」

 鳴ったタイマーをおさえたのは歩の手だった。フタの上であたためておいた液体スープを入れて、大事に大事に食卓へ持っていく。

「あとで塩ラーメン、一口ください」
「醤油ラーメン二口」
「え! そ、それは交渉決裂……」
「食べたいんだろ」
「ぬ……武力行使しかない……」
「なんでだよ」



20171003
written by tohko



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