:三年間音信不通だった君の話
:愛と睦月


「結婚、するんだ」
「そうですか、」

 彼と電話などというものを繋いだのはこれが初めてだった、ように思う。私達の嘘と冗談はいつも顔をあわせて交わされた、交わされていた。
 昼下がり、紅茶を飲んだマグカップをシンクに入れて洗濯物が仕上がるのを待っていた。机の上でガタガタ鳴る携帯を取ると、生活音の一部のように君は簡単に言った。貴方の番号が私の携帯に登録されていたことの方が意外だった。
「……反応がうっすい」
「切ってよろしいですか?」
「ひどいな、久々だよ」
「申し訳ありませんが、恋人との約束があるので」
「えっ、嘘」
 三年ぶりに聞く声は、変わったのか否かも判断に難かった。彼であることは確かだったが、その確信の曖昧さを私は本当は恐れなくてはならない。ならなかったのだろう、君が姿をくらましたときにきちんと絶望できるように。
 曖昧を上塗り嘘で塗り込めた私達の関係のなかに絶望はなかった。残念ながら、私の隣に貴方が存在したことのないように、存在しなかったことのないように、嘘は無敵だ。

「「なんて、うそ」」

 嘘。嘘です。貴方の笑う声と漏れる呼吸が受話器越しに風を鳴らす。外を歩いている足音と雑踏が混じり聞こえて、街中に溶けるようだ。

「睦月は相変わらず嘘が下手ですね」
「愛こそ、むきになったように返しただろ」
「あら、本当に私に恋人がいないかなんて確信できます?」
「恋人と、約束はしてないだろ、」

 僕たちの間に約束はないから、そういう下らない気障ったらしい言葉を吐く、その口を塞げないから君と電話をしなかった。ことを思い出すのにちょうどよかった、三年間。 この電話が切れたらかけ直すことは互いにない。けれどこのあと貴方に会う、必ず貴方はインターホンを鳴らす、約束はない。それは私たちが嘘で作った本当だ。


written by togi
2017.09.23 サイト掲載






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