(オトと偲)
塗りたくったような灰色でヨノナカはできている。半分くらいはそう思ってて、もう半分くらいは意外とキラキラしてね? っていうかお前視界せまくね? くらいの気持ちで、自分の中から出てきたコトバを眺めている。
駅前はくそほど人がいるし何かとうるさい、待ち合わせ場所にうってつけだけど待ち合わせには向いてない、人を見つけるのが下手。その中で偲はオレをみつけて声より先に頭を小突いてくる。そのまま無言で歩きはじめるのでオレは口から喧噪に負けないくらいの文句をマシンガンしながらついて行った。
灰色。というよりは確かに若干青や緑があって、夜。夜の街中はどうしても色に支配されてく。この人の目は若干だけど緑と青が。入ってる気がして。そこが最高だと思います。
「あ! おっもいだした。昨日偲がおいてったカップ麺死んじゃったから買って返すわ」
「……お前が食ったんだろ」
「湯入れてそのまま机で寝てたら死んでたからァ、死んだ!」
「最低かよ」
「食ったけどね?」
「最低だよ」
ベースを背負ってるこの男の隣を歩いていることになんっの生産性もない。マジでない。無いよ、たぶん、わっかんねえけど。考えるのも割とローリョク。大体こいつなんでオレん家に帰ってきてんだ? 今日テイキアツ来てなくね? 水道代を払っているから? ソノセツは大変お世話になりました、なり続けている、もうトイレ行くたびに感謝の祈りとか捧げるわ。あーあ、財布どこいったかなあよくわっかんねえうちに死んじゃったんだよなあ。大事にしてるものから死ぬ。
「ああ、そういやお前の財布。今朝見つけた」
「えっ言って? 普通に言って? 何で今ゆった? 逆に?」
カップ麺買って返すわっつったけど財布死んでたわ見つかんねえものについてすぐ死んだっていうのやめろってか今日家になんもない素麺も死んだだから殺してんだよお前は、ってコンビニで結局全部偲が会計済ませたあたりで言われた。明日の朝飯用のコーンフレークまで買われた。オレはココア味の方がスキで次にシュガーなんだけど偲は砂糖もかかってないやつを買った。待って。
「ドコ? ドコにあった?」
「え、ベッドの隙間。つーか何で見つけられなかったのか分からない」
「ウッソオレそこ超見たよ!? 見ました! 10回は見た!」
「節穴……」
「偲が魔法使いで良くない!? 何でオレに呪い返すの!? つか今ドコ置いた?」
「……机の上に置いたけど」
「えー、無かった。帰ったら魔法で出してぇ」
何でも死んで、で、生き返る。生き返すのは滅茶苦茶ニガテで、だからこうゆうとき偲はすっげえなあとかバクゼンと思ったり思わなかったりする。生き返したいものはそんなにない。今一番生き返ってほしかったのは確実に財布なので天才。イトウシノブ天才。ヨノナカの灰色のほとんどは死んだまんまでイイ。オレだって大体灰色で過ごしている。でも。この人の目は若干だけど緑と青が。入ってる気がして。そこに救われたりなんてするんだと思います。
2016.9.22 ツイッター初出
written by togi
2017.09.23 サイト掲載