(夭折星の前日譚かもしれない)



 よく星がみえる夜は、ふたりで屋根の下を抜けてコンビニにいった。
 ながれる雲がベテルギウスを隠してしまった夜も、惑星の光が強くてレグルスがにじんでいた夜も。カルピスなり、あるいは肉まんなりを片手にふたりで空を指さした。
 星の名前は呼ばなくてもわかる。お互いの名前を呼ぶほど、にぎやかな時間でもない。だから自然と声はなく、指先だけであちこちを追う。
 世界にふたりきりだとかは言わない。星と同じくらいたくさんの灯りが見えるこの町では、ふたりきりなんてちょっとかわいすぎる夢だ。さっきもおじいさんとおばあさんが二人でコンビニの袋を揺らして歩いてった。本当になんでもありましたね、そうだなあ、なんて笑いながら。いいなあ。

「黒梨っておじいさんになったら白髪になるのかな。銀髪のまま?」
「なってみねーとわかんねえだろ。葵はちっちゃなおばあさんだろうけど」
「いやいやおっきくなってるかもよ? ね?」
「第何次成長期だよ」

 きっとちっちゃいままだよ、というこの人の顔はじつはけっこうやさしげだったりして、第何次だよとかからかわれたのが気にならなくなる。わたしもけっこう単純だから。じつは。じつはもなにもねえだろって、黒梨はまた笑うだろうけど。そんな、この人の何気ない笑顔がすきだ。
 夜の匂いをいっぱいに吸い込んで、ちょっとぬるくなりはじめてるカルピスを飲む。視界のはしでどこかのお家の2階から、灯りが消えた。おやすみなさい知らないひと。
 夜が更けてすこしずつ雲がでてきた。黒梨がそろそろ帰ろうか、と手を差し出す。それを握ってから「そうだね」と答える。きょうは火星が随分とつよく光っていた。

「わたし、黒梨といっしょにおばあさんになるからね」
「俺はじいさんだけどな」
「そう、いっしょにいてね。おじいさんになるまで、ずっとよ」

 星の光も夜の匂いもみえなくなっても。ずっと。
 もしかしたら、祈りより呪いのように。そう願っている。



20160904



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