(枯袖日宵と高嶋永久)
(が、まだ付き合っていて同棲していた頃)



 買い物を終えて帰宅、と同時にメールが来た。靴を脱ぎながら確認。永久からだった。無題。写真の添付が一枚ついてる。

「これすっごく日宵◎」

 とかいうどうみても頭が心配な文面と一緒に、ピンクっぽくてカワイイ感じのお酒のビンの画像。金色のリボンがかかってて見た目の頭の偏差値は低め。はぁ? と声に出したか出さなかったか。
 こいつまだ新宿にいるなと画像の背景から察した。特にメールの内容には触れず、「帰り何時?」とだけ返す。下手にかわいい! とか、うれしい! とか返信してしまうとこの人は絶対に買ってきてしまうから。
 本当はこうしてくれるメールの一つ一つを保護してたりしてめっちゃキモいんですけどね、俺。

「あと一時間くらい」
「おっけー、夕飯つくっとくわ」

 作るって言ってもクックドゥー様による麻婆豆腐とかなんですけれども。文明にマジで感謝。豆腐だけで出来上がる夕飯。気分により追加される長ネギ。とぐのがめんどいから無洗米。現代社会は俺のことを甘やかしまくってくる。

 買い物袋から今日買ったものを出していく。スーパーで1枚5円の薄っぺらいやつ。最近ちゃんとスーパーで買い物するからって買った青くて綺麗なエコバッグは綺麗なまま部屋にかかってる。
 ばかにしてる。明日は絶対忘れないからな、覚えてろよ。いや俺だよ。

 今日は食材以外にもいろいろと足りなくなっていた消耗品とか日用品的な、例えば食器とかそんなものも買った。
トイレットペーパー、食器用潜在、洗面所のコップ、菜箸、小皿が二枚、調味料入れ、替えの歯ブラシ。買いすぎた感が若干垣間見えるが気にしない。

 夜忘れないように、とりあえず歯ブラシを開封して洗面所要のコップと一緒に洗面所に置いた。悪くないじゃん。っていうかいい買い物した。満足感がやってくるけど俺の仕事は始まったばかりであることを忘れてはならない。

 傍らには永久の歯ブラシが置いてある。ピンクとオレンジの柄の、ばかっぽいやつ。ラメも入ってる。例によって「すっごく日宵」とかいうあれで購入されてきたものだった。さっきからこいつ思ったけど馬鹿っぽいもの俺っぽいって買ってきてるな? だまされてるな?

 最初は俺に渡すつもりだったらしいけど、俺が歯ブラシを替えたばっかだったので永久が使うことになった。まったく衝動買い。本人は満足してるみたいなので、まあ、いいんだけど。
 隣に新しく置いた俺の開封したての歯ブラシとコップは、硬質な深い青だった。透き通ったブルーにグラデがかかってる。ちょっといいやつを奮発して買った。今まで別段青色が好きだったわけじゃない。透き通った深い青は、バカ、みたいなはなし。

「すっごく、永久」

 口に出したとたんクソ恥ずかしいことに気がついたし気がついていたしキャラじゃなさがヤバイし死にたくなった。けどこうして生活の色が変わっていくことは不快ではなかった。ばっかだなーと思う、そういう言葉はちゃんと頭の中をめぐる。くだらない、一過性の、能天気な、いつか絶対後悔するような、ばかになってる。
冷静じゃない。たぶん。幸せにおぼれるみたいにこの先が見えないみたいに。お互いにお互いの色を押し付けあっている。不釣合いなピンクと青色。振り向いてみれば、今日買ってきた雑貨は軒並み青系。もはや笑うしかないでしょ。っていうか笑って、頼むから。

 帰ってくるあいつは、たぶんのピンクの酒を買ってきている。おいおいお前全然飲まないくせに。俺はそれを絶対にバカだなって言って笑うけど。きっと、うれしい。



written by togi
2015/12/11







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