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雨の後

ゴゴゴゴゴ……。
雨が降る中、軍でもっとも暑苦しい男、アレックス・ルイ・アームストロング少佐は傷の男と対峙していた。

「…今日はまったく次から次へと……。こちらから出向く手間が省けるというものだ。これも神の加護か!」
「ふっふ…やはり引かぬか。ならばその勇気に敬意を表して見せてやろう!わがアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬金法を!!」

少佐は瓦礫の山から石を持ち上げ、それを拳で殴り飛ばす。
錬金術によりそれは形を変えられ、槍のようなものになり壁に突き刺さるも傷の男は軽々とそれを避けた。
少佐が創り、傷の男が壊す。
その繰り返しで戦いは激化して行くのだが、その度に街が激しく壊れて行く。

「少佐!あまり市街を破壊せんでください!!」
「何を言う!!破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!破壊と創造は表裏一体ー!!壊して創る!!これすなわち大宇宙の法則なり!!!」

ドォオオン!
軍服の上着を脱ぐ少佐。
わけがわからない。
そもそも壊したらちゃんと直せよ筋肉バカ!
リーアはエドワードの隣でそう思った。

「なぜ脱ぐ」
「て言うかなんてムチャな錬金術……」
「なぁに…同じ錬金術師ならムチャとは思わんさ。そうだろう?傷の男よ」
「錬金術師…。奴も錬金術師だと言うのか!?」
「やっぱりそうか。錬金術の錬成過程は大きく分けて理解、分解、再構築の三つ」
「なるほど。つまり奴は分解の過程で錬成を止めているという事か」
「ま、ふつーじゃない事は確かだけど…奴はまごう事なく、錬金術師よ」
「自分も錬金術師って…じゃあ奴の言う神の道に背いてるじゃないですか!」
「ああ…。しかも狙うのはきまって国家資格を持つ者というのはいったい…」
「何か理由があるのかもね」

ドンッ!

「やったか!?」
「速いですね、一発かすっただけです」
「褐色の肌に赤目の…!」
「イシュヴァールの民か……!!」

傷の男がかけていたサングラスが地面に落ち、見えたのは赤い目。
マスタングと少佐は驚きを表す。
なぜなら二人はその目に見覚えがあった。

「…やはりこの人数を相手では分が悪い」
「おっと!この包囲もうから逃れられると思っているのかね」

マスタングが手を挙げるのと同時に、後ろに控えていた兵達が銃を構え、傷の男に標準を合わる。
多勢に無勢とはまさにこの事だろう。
合図を送ればすぐ傷の男に向かって銃弾が発砲される手筈だ。
しかし傷の男は戸惑うことなく足元を壊し、地下水道へと逃走。

「…野郎地下水道に!!」
「追うなよ」
「おいませんよ、あんな危ない奴」
「すまんな、包囲するだけの時間をかせいでもらったというのに」
「いえいえ。時間かせぎどころかこっちが殺られぬようにするのが精一杯で…」
「お?終わったか?」
「ヒューズ中佐…今までどこに」
「物陰にかくれてた!」
「おまえなぁ、援護とかしろよ!」
「うるせぇ!!俺みたいな一般人をおまえらデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!!」
「デタ…」
「オラ!戦い終わったら終わったでやる事沢山あるだろ!市内緊急配備、人相書き回せよ!」
「アルフォンス!!」

「アル!大丈夫かおい!!」
「…この…バカ兄!!」

「なんでボクが逃げろって言った時に逃げなかったんだよ!!」
「だからアルを置いて逃げる訳に…」
「それがバカだって言うんだーーっ!!」

ばちこーん!

「なんでだよ!オレだけ逃げたらおまえ殺されてたかもしれないじゃんか!!」
「殺されなかったかもしれないだろ!!生きのびる可能性があるのにあえて死ぬ方を選ぶなんてバカのする事だ!!」
「あ…兄貴に向かってあんまりバカバカ言うなーーっ!!」
「何度でも言ってやるさ!!生きて生きて生きのびて、もっと錬金術を研究すればボク達が元の体に戻る方法も…。ニーナみたいな不幸な娘を救う方法もみつかるかもしれないのに!!それなのにその可能性を投げ捨てて死ぬ方を選ぶなんて、そんなマネは絶対に許さない!!」

「あ、」
「ああっ、右手ももげちゃったじゃないか兄さんのバカたれ!!」
「はは…、ボロボロだなオレ達。カッコ悪いったらありゃしねぇ」
「カッコ悪くなんかないよ」
「リーアさん…」
「アタシ、二人のこと誤解してたみたいね。何も出来ないただの子供かと思ってたけど、そうじゃなかった」
「子供…って、あんたも子供だろ!」
「これでもアタシ、もう19よ」
「「ええええええ!!?」」
「何よその反応」

「私もその一人だ。だからイシュヴァールの生き残りであるあの男の復讐には正当性がある」
「ぐだらねえ。関係ない人間も巻き込む復讐に正当性もくそもあるかよ。醜い復讐心を『神の代行人』ってオブラートに包んで崇高ぶってるだけだ」
「だがな、錬金術を忌み嫌う者がその錬金術をもって復讐しようってんだ。なりふりかまわん人間ってのは一番やっかいで怖ぇぞ」
「なりふりかまってられないのはこっちも同じだ。我々もまだ死ぬわけにはいかないからな。次に会った時は問答無用で潰す」

「さて!辛気臭ぇ話はこれで終わりだ。エルリック兄弟とリーアはどうする?」
「うん…アルの鎧を直してやりたいんだけどオレこの腕じゃ術を使えないしぁ」
「吾輩が直してやろうか?」
「遠慮します」
「じゃあアタシがやろうか?」
「いや…アルの鎧と魂の定着方法を知ってんのはオレだけだから…まずはオレの腕を元に戻さないと」
「そうよねぇ…錬金術の使えないエドワード君なんて…」
「ただの口の悪いガキっすね」
「くそ生意気な豆だ」
「無能だな無能!」
「ごめん兄さん、フォローできないよ」
「いじめだーー!!」

「しょーがない…。うちの整備士の所に行ってくるか」


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