何で俺がこんな事、 [ 3/43 ]

それは暑い日だった。

季節は梅雨の終わりで、外は本格的な雨が降っていて薄暗い。

その割に室内の兵舎は湿気を目一杯吸って膨れた木造の建材と、雨が入ってこないように締め切られた窓の所為で風の通り道すら無く、ひたすら暑さが肌に張り付く。

このジメジメした空気の所為なのか、暑さで汗ばんだ所為なのかどちらか分からないが、とにかく触らなくても分かるベタついた肌が気持ち悪い。

ロクな訓練も出来ず、書類でも進めようかと思おうにも、書類の上に乗せた手のひらや腕に一々紙が貼り付いて浮いたり、せっかく書いた文字のインクを伸ばしてしまったりして一向に進まない。

この日の全てに苛ついて、もうやれる事もないし窓際に腰掛けた。

雨が当たる窓に身体を預けると、ひんやりとしていて少しは気持ちがマシになる。

目を閉じ、地面を打つ雨の音に集中していると、雨の音に混じって聞き慣れた声が耳に入ってきた。

楽しそうな二人の笑い声。
と、それを咎める呆れたような声。


閉じていた瞳を持ち上げ、下に向けてみる。

思わずギョッとした。


雨の中を走り回るハンジと、ナマエ。

目を開けられないほど楽しそうに笑いながら、降ってくる雨の粒をシャツに受け止めて行く。

身体に巻いたベルトが、濡れて透けたシャツを身体に押し付け、胸のベルトの下にはハッキリとした谷間の線とそれを包む薄ピンク色の下着が見えた。
それと下腹部の肌色と、ヘソの線も。


急いで窓を押し開き、途端に大きくなった雨音に負けないよう腹から声をあげる。

「おい!てめえ、何してる!」


駆け回る足を止め、二人が何事かとこちらを見上げる。
びしょ濡れのきょとんとした顔に、雨が流れる。


「てめえだ!ナマエ!」

「え?わたし・・?」

自分を指差し、ハンジと顔を見合わせたあと、再びこちらを見上げてそしてにっこりと笑った。


「水遊び!だって暑いし雨で訓練も出来ないし紙は貼り付いてくるし話になんないんだもー」

話にならないのはお前だろう。

ナマエの言葉が終わるのも待てず、窓際から離れ階段を駆け下りる。

下に着くと、まだ不思議そうに俺がいた窓を見上げているナマエと俺に気づいて後ずさるモブリット。

「来い!」

「わっ!・・リヴァイ?!」

からかうような視線のハンジに睨みを利かせ、ついでにモブリットにも一瞥してびしょ濡れのナマエを引きずり上へ戻った。


「入れ、これを着ろ。」

「ねえ!ちょっとリヴァー」

慌てるナマエの言葉を待たずに浴室へと押し込み、扉を勢いよく閉める。

しばらくするとシャワーの音が聞こえてきて、やっと胸を撫で下ろした。

ふと気がついてみると、ナマエ程ではないが濡れてしまった自分の髪とシャツ。
閉め忘れていた窓とびしょ濡れのナマエが通った後の水溜りの道。

こういう状態があまり得意ではない自分には悲惨な状況で、頭を抱えて浴室の扉を背に座り込んだ。


「何で、俺がこんなこと・・・。」

扉の向こう側でシャワーの音が止み、体を拭く気配がした。

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