補習 [ 38/43 ]

「ナマエ。」

ぴしゃりと名前を呼ぶと、ギクリと敬礼を捧げる肩が揺れる。

「分かってるな。」

「う・・・・はい。」


消え入りそうな声で返事をするナマエを、またかと笑うオルオ達は知らない。


「頑張れよ、ナマエ!」

「兵長に直接指導して貰えるなんて、幸せな事なのよ。だから頑張って、ね?」

「ううぅ・・ペトラ〜!」

ペトラに泣きつく恋人をジトリと見る。
そんなに嫌か、おい。

「来い。ナマエ。他の奴らはもう上がっていいぞ。」

歩き始めると、ナマエは渋々歩いてついて来てる様だった。

林に入り、誰もいない事を確認して後ろに向き直る。

「おい。」

「ひっ!・・・はい。」

「何だその態度は。そんなに俺との補習が嫌か。」

「嫌・・・じゃありません。」

「敬語はもういい。ちっ。せっかくお前が説明してもすぐに忘れる連携の手順をその空っぽの頭に叩き込んでやろうってのに、そんな後ろ向きな構えじゃ身につくはずもねえだろう。分かってんのか?ああ?」

「はい・・・すみません・・。」

「ちっ・・。まあいい。始めるぞ、いいか、俺がグンタ役。お前は自分の役割の動きをしろ。さっきやったから分かるな?」

「はい、分かると思います・・・さっきは途中でド忘れしちゃったけど・・・。」

「そうだ。さっきお前は途中でヘマをした。だから今日も残されてる。今回は魂入れてやれよ。
また同じ失敗したら許さねえぞ。」

「はい。」

「始める。」


大事な事だと言うのにどこか煮え切らない恋人に苛立ち、これで上手くいかなかったらお灸を据えるつもりで空中に飛び立った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「・・・出来るじゃねえか。」

「はぁっ・・はぁっ・・ありがとう、ございます・・・!」

何と、あんなに渋っていた癖にすんなりと連携が取れた。

訓練中は次の手順にモタつき、グンタの足を引っ張り、何回教えても最後までミスなく役目を果たせなかったナマエが一回ですんなりとやってのけた。

「これで明日の訓練は大丈夫そうだな。」

さっきのこいつの動きを、ペトラ達が見たら驚くだろう。

まさに痒いところに手が届く働きぶりだった。

いつも班の足を引っ張りがちな恋人の働きぶりを、早く見せてやりたい。

ナマエだってやれば出来るんだ。すごいだろう。

今なら、子を見守る親の気持ちが分かる気がする。


「そう、ですね。頑張ります・・。」


・・・・・おかしい。

「なあ、さっきから何なんだ、そのジメジメした面は。何が言いたい。何か文句があるなら言えよ、不愉快だ。そんなお前に付き合ってやれるほど、俺も甘くはないぞ。」


こんなにナマエに苛立つのは初めてだ。
ナマエは訓練に積極的な方だし、努力家でいつだって誰よりも真面目に取り組む健気な奴だ。
こんな風に理由も言わずにただウジウジして、失敗せずに上手に動けた事を喜ばないような時はなかった。

さすがに恋人でも、この態度はよろしくない。
確かに俺はこいつを甘やかしてたかれねえが・・・。


珍しく俺に怒られてシュンとしながらも、やはり何か言いたい事があるようで「あの」とか「その」とか、口を開いたと思ったら閉じてまごつかせている。

もうこうなったら言うまで待ってやると、腕を組んでじっとナマエの言葉を待った。


「・・・怒らない・・?」


最初に口を出たのはそんな言葉で。


「・・分からねえな。」


ナマエにゃ悪いが、上司として怒らなければいけない時もある。それが恋人だとしても。


ナマエは少し悲しそうな、困った顔をしながらも腹を括り少しずつ話し始めた。


「その・・・今出来たのは・・

相手がリヴァイだったからなの・・。


リヴァイの事、ずっと見てきたから・・相手がリヴァイなら次にやるべき事が自然と分かる。

リヴァイの目線や仕草が、私にとって一番分かりやすい合図になってて・・リヴァイとだったら自然と考えるより先に身体が動いてくれるの・・。

何で出来ないのか、本当は分かってた。どうすれば出来るようになるのかも・・・でも・・。

あの、それで・・・・ごめんなさい。」


段々小さくなり、項垂れてしまった恋人を目の前に途方にくれた。


「お前・・・それで俺が怒れると思うか・・・。」

「・・・・ごめんね・・。」


さっきの文句のつけようがない動きは、そういう事だったのか。

俺との連携だったから・・・・。


だらしなく赤面し、緩む顔を手の平で覆った。


そんな事じゃダメなんだと叱れる程、俺はこいつに厳しく出来ない。

分かってはいるが、こんなに可愛い事を言われてどうやって叱ればいい?

他の奴とじゃ戸惑うだけのナマエが、俺と飛ぶと生き生きして生まれ変わる。


「・・・・来い。」

手を伸ばし、顔色を伺いながらおずおずと近づく頭を抱き寄せた。


「馬鹿野郎が。」


これ以上は言えない。


俺はこいつに甘い。恋人だからそれでいい。どうしようもないくらいに可愛いこいつが悪いんだ。

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