普通の女の子 × 地下街のゴロツキ | ナノ



なんとなく、
原作編


ー カチコチ、カチコチ ーー

壁に備え付けられた振り子時計の針が揺れ、音を刻む。

リヴァイ兵長がナマエさんと上の階に消え、どのくらい経っただろう。

机を囲むリヴァイ班の面々と、実験の指揮者であるハンジさんと、そのお守り役的モブリットさん。全員が、沈黙の空気を貫いている。

突然の巨人化により、危なくリヴァイ班の手によって処分されるところだったが、一番その手に長けていそうなリヴァイ兵長によって無事に命は繋がれた。

そして、ハンジ分隊長(忘れていたが、この人も立派な幹部の一人なのだ)の状況調査により、「スプーンを拾おうとした = はっきりとした目的を持つこと 」も、巨人化における大切な条件の一つなのだと無事に分かった。

自傷行為と、目的意識。
この二つを揃えれば本当に巨人化出来るのか・・・まだそこまでは実験していない。

取り敢えず今日はここまでと言う事になった。
皆んな殺気立たせた疲れがドッと出ていたし、何しろリヴァイ兵長が居ない。

リヴァイ兵長にドヤされた時にはどうしようかと途方に暮れたが、最終的にまずまずの収穫が出来て良かったと心の底から思う。

きっと痛い思いをする事はないだろう。

それなのに心のモヤが晴れないのは、兵長の可愛い恋人を吹き飛ばしてしまったからだった。

そのひ弱な体が地面に落とされる前にナマエさんを助けた兵長は俺に怒る訳でもなく、溺愛している恋人を吹き飛ばされた割には妙に落ち着き払って恋人を吹き飛ばした俺を殺さないよう、場を宥めさせた。

無様にも腕を巨体に繋がれ身動きの取れないパニクった頭で見ても、班を率いて並の兵士の上に立つ人間に相応しい立ち姿だった。


「リヴァイ兵長はやっぱり凄いです。
あんな風に冷静でいられる自信が、俺には有りません。」

久しぶりに時計以外の音を聴いた気がする。


「・・・リヴァイが冷静だって・・?」

ハハッと、乾いた笑いを抑えるように眼鏡が持ち上がった。

「冷静でいられたら、きっと今ここに居るはずだよ。」

ハンジさんが言い終わるのと、扉が開かれるのは殆ど同時だった。

カツカツと早めの足運びで兵長が入室し、グラスを手に取り水を注ぐ。

「何の話だ。」

「リヴァイがえらく冷静だったんじゃないかって話だよ。」

・・・別に悪いことは言ってない、むしろ良いことだとは思う。

けれどハンジさんは頬杖を付き、含みを持たせて、どこか面白そうに笑っている。

ジトリとハンジさんの方を見据え、溜息をついて頭を掻いた兵長はバツが悪そうだ。

「・・放っとけ。」

短く返し、それ以上は語らないとばかりにグラスを煽る。

ケラケラと楽しそうに笑ってリヴァイ兵長の肩に手をかけたハンジさんが、片目を瞬かせる。

一人暑さを感じているらしい兵長が、珍しくクラバットを付けていない晒された鎖骨の下のシャツを摘み、ぱたつかせて風を招き入れる。

シャツの萎みに合わせて吹き上がる刈りそろえられた後ろ髪に、何故か漂う色気を感じた。

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