あなたがサンタクロース

近年のクリスマスというものは、家族や友人とどんちゃん騒ぎをしたり、恋人同士がセックスする理由にするだけの騒々しいイベントの一つだ。
子供はサンタさんという四次元ポケットを持ったメタボ型ロボットに欲しいものをねだり、親は「いい子にしないとサンタさん来ないよ」という魔法の呪文を唱える期間だ。
恋人たちは、値段ばかりやたらと高いクリスマス限定ディナーだのクリスマス限定デザインの何たらを、カラーリングから赤と緑を外せば普段と何も変わりはしないものをやたらとありがたがる。
その後はどうせロクに見やしない夜景が綺麗なホテルを取ってしっぽりと性夜に励むのが、恋人たちのクリスマスの流儀らしい。
男はサンタ帽を被り、女はトナカイのカチューシャをつけてコスチュームプレイというやつだ。
ソリになんて乗らないで直接私に跨ってよ、とかそういうアレだ。
鈴を鳴らさずお前を啼かせてやるってか。
そのまま朝まで催淫TO☆NIGHTか。
しかし、俺ははっきりと言いたい。
サンタのコスプレは女がやるべきだと。

「まあ、銀さん!そんなに私とサンタプレイがしたいの!?いいわよ!私ならクリスマスを過ぎたってサンタという名のあなたに幸せを運び続ける奴隷であり続けるわ!」
「はあ?何言ってんだ。オメーみたいなドMサンタなんてお呼びじゃねーんだよ。つーかその格好は正しいサンタコスじゃねェ。」

突然天井裏から降りてきたサンタのコスプレをしたさっちゃんを、俺は鼻をほじりながら切り捨てた。
ノースリーブでへそを丸出しにした短い上着に、屈めば下着まで丸見えになりそうな短いスカート。
俺はそのコスプレを断固として認めるわけにはいかなかった。

「何でもかんでも出しときゃいいってもんじゃねーんだよ。脚を出したら胸は出し惜しむ。胸を出したら脚は見せない。剥ぐ楽しみもないコスプレなんざただの風俗嬢と変わんねーから。風俗案内所のパネルがクライマックスでいざプレイルーム入ったら、あ、こんなもん?みたいなソープと変わんねーから。」
「な、なんてこと…ここまで来てまだ私を焦らすっていうの!?一枚一枚私をひん剥いて辱めるのね!?いいじゃない!焦らしなさいよ!!燃えるじゃないのォォォ!!!」

叫び出すマゾな女忍者を構ってやる気はさらさらなかった。
しかし、主張を曲げるわけにはいかない俺は正しいサンタプレイを教授してやる。

「サンタコスっつーのは、本来メタボのジジイが着てるモコモコのもっさい格好を華奢な女の子がやってるからいいんだよ。あのダボついた余った裾がいいんだろーが。だから上半身は萌え袖になるくらいの長袖。下半身はミニスカワンピ仕様で太ももを出す。もったりと余った腹回りを黒ベルトできゅきゅっと締め上げてくびれを出すのが正しいサンタコスだ。テメーのサンタコスは下品なだけで情緒がねーんだよ。」

拳を握りながら正しいコスプレの作法を授けてやると、さっちゃんはハッとしたように表情を引き締めた。

「た、確かに…!たった一枚…たった一枚脱ぎ捨てるだけですべてさらけ出してしまう無防備さ…!もっさいサンタジャケットの下ならばどんなエロ下着を着ていてもわからないというサプライズ…!!確かにこれは至高のサンタプレイだわ…!」
「そうだ。あの毛玉が浮きまくってそうな分厚い上着の下に『私がプ・レ・ゼ・ン・ト』みたいな仕掛けをするのがいいんだ。これぞ正しく恋人はサンタクロースで私がプレゼントプレイ!!」

クリスマスの朝、目を覚ますとプレゼントで膨らんだ靴下の代わりに、●●が俺の枕元に座り込みそわそわとした様子で待ち構えている。
俺が起きたことを確認した●●は、落ち着かない様子で控えめに、銀ちゃんおはよう、とはにかむ。
おう、どうした、今日はえらく早起きだな、と俺が声を掛けると●●はもじもじと短い裾をいじる(もちろん裾というのはサンタ風ミニスカート型ワンピースの裾だ)。
おいおい朝っぱらからもうクリスマス気分か気が早ぇーんじゃねーの、とからかう俺に●●は真っ赤な顔を俯かせる。
そしてしばらく視線をさまよわせた後、●●は潤んだ目を俺に向けながら言うのだ。
あのね、今年は私がプレゼントなの、受け取ってくれる?と。
そしてワンピースの下からは大事なところをリボンで隠した●●の肢体が現れ、楽しい大人のプレゼント交換が始まるわけだ。
ああ素晴らしきかな、クリスマス。

「キモイアル。」
「完全におっさんの発想ですよ、それ。」

熱く語る俺の主張を冷め切ったガキ共の声が切り捨てた。
社長机を挟んで議論する俺とさっちゃんの様子を黙って見守っていた新八と神楽は、ぼりぼりとせんべいを齧りながら俺たちに冷たい視線を寄越してくれた。
まだ若いのにそんな擦れた表情をするんじゃありません、と言いたくなる気持ちを必死に抑える。
俺は大人だからだ。
靴下抱えて布団に入る子供とは違い、俺は●●の脚を抱いて寝る予定の大人だからだ。

「うっせー、ガキにはわかんねーのよ。大人のクリスマスの過ごし方が。」
「何が大人アルか。変態のクリスマスの過ごし方の間違いネ。」

雪がチラつく外の空気よりも冷え切った神楽の言葉は聞かないことにした。
俺は目の前の変態くノ一に向かい合う。

「サンタジャケットの下から亀甲縛りをした私が現れればいいのね!?すごいわ!燃えるわ!!」
「いや、ここはクリスマスバージョンだろ。ラッピング用のひらひらしたリボンを巻いた●●が欲しいな、俺は。」
「ならこうするわ!銀さんのベルトと帯で縛られた状態で現れるさっちゃんサンタ!これなら完璧よ!もうすでにあなただけのもの、という完璧なアピール!!」
「はい、それ採用。俺が普段使ってる帯を素肌に巻く●●か。完璧なプレゼントじゃねーの。」

キャーキャー騒ぐさっちゃんを相手に●●のコスプレ妄想をしていると、またしても新八と神楽の冷たい視線が突き刺さる。
気にしたら負けだ。
俺は真剣にクリスマスの●●に想いを馳せた。

「噛みあってるんだか噛みあってないんだか…。」
「変態は変態を呼ぶアル。要するに相手の話なんて聞いてないネ。奴らは自分の主張を押し付けあうだけの自己顕示欲の塊アル。」

しかし、ずずずっと音を立てて茶をすすった神楽が放った次の一言は、さすがの俺でも無視することはできなかった。

「大体、●●は銀ちゃんの彼女でもなんでもないネ。そんな変態臭いコスプレしてくれるわけないアル。」

俺は、今の今まで高揚していた気分が一気にクールダウンしていくのを感じた。

***

ジャック・オー・ランタン。
かぼちゃのランタン。
生前にロクな生き方をしてこなかったぐーたらなジャックという男が、死後地獄をさまよい歩くために使用したというかぶで作ったランタンが、いつしかかぼちゃに取って代わったという言い伝え。
ジャックは生前に地獄に送られた際、そこで出会った悪魔を騙し現世に舞い戻ったこともあるという。
ハロウィンを過ぎてからようやくかぼちゃの提灯のおおまかな由来を知った俺だったが、あのハロウィンの夜に察した●●の意図は決して的外れなものではなかったと信じたい。
俺を”ぐーたらなジャック”と指名し、一度渡したかぼちゃプリンをわざわざ取り上げ、去り際に『迷子になるな』と念押しした●●は、間違いなくぐーたらなジャックの命運を握る小悪魔だった。
だからこそ、ぐーたらなジャックであるこの俺だけが、かぼちゃプリンを取り返す立派な大義名分を持っているのだと確信し、ミイラ男のコスプレ姿のまま原付に跨り●●の家を訪問した。
十二時を回りすでに日付の上ではハロウィンは終わってしまっていたが、俺は●●の家のインターホンを高橋名人もびっくりの速度で連打した。
そして、俺の近所迷惑な行為もまるで意に介さず、あ、銀ちゃん、いらっしゃい、と●●が玄関を開けたとき、俺は心の底から安堵したことをよく覚えている。
おう、あれだ、あのかぼちゃプリン、あれな、俺に寄越せ。
うん、いいよ。
しどろもどろなカツアゲをする俺を全く気にした様子もなく●●が俺を家に招き入れたとき、これはマズいのではないかと思った。
顔を赤く染め恥ずかしがるでもなく、満面の笑みで喜びを表すのでもなく、友人とお茶会でもするようなその気安さは、俺が完全に●●の手の中で転がされているという表れだ。
これから濃密なハロー淫☆ナイトを過ごすためには、俺が●●をリードする必要があるだろう。
一度ここで大人の男の余裕を見せておくべきだと俺は判断した。
だから、●●に案内された居間にインスタントのカップスープがぽつりと置かれているのを見たとき、俺はチャンスだと思ったのだ。
なにお前、本当にそんなテキトーなもんで晩飯済ませるつもりだったわけ?
そう言ってからかってやると●●は少し恥ずかしそうに頬を染め、だってこの時間に一からご飯作るの面倒だし、とごにょごにょと言い訳をし始めた。
ますます虐めてやりたくなるようなその態度に俺は大いに満足しつつ、今を置いて他に俺の余裕をアピールするチャンスはないだろうと確信した。
バカですかお前さんは、別に凝ったもんなんて作る必要ねーだろ、ぱぱっとテキトーにできるもんなんていくらでもあるでしょーが。
そう言って俺は万事屋としてこれまで培ってきた料理スキルを遺憾なく発揮してみせた。
冷凍庫で眠っていたぶりを使った照り焼き、在り合わせの野菜をぶち込んだ豚汁、豚汁で使った野菜の余りでお新香。
てきぱきと料理を作る俺の様子を見て、●●は目を丸めて喜んだ。
すごいね、銀ちゃん、手際もいいし、おいしそう。
そう言って俺の手元をのぞき込んでくる●●に俺は心の中でガッツポーズをした。
二人で並んで台所に立つだなんてまるで新婚夫婦のようだと。
すごいすごい、と手を叩いてはしゃぐ●●に気をよくした俺はフライ返しを使わずにぶりをひっくり返して焼いてやった。
途切れることのない大根の桂剥きを披露した。
調子に乗って豚汁に入れる人参を花の形に切ってみたりした。
今度、作り方教えてね、とねだる●●からの尊敬の眼差しを受けつつ、二人で出来上がった食事を食べ、デザートに●●のかぼちゃプリンを食べた。
美味いな、これ、というと、ホント?このプリンはね、自信作なの、と●●が笑った。
これね、かぼちゃを一玉買ってくるといっぱい作れるから神楽ちゃんにおすすめだよ。
マジでか、かぼちゃは腹持ちいいしな、胃袋拡張娘には大量生産できるもんじゃないと焼け石に水だからな。
作り方教えよっか?えっとねー、ポイントはかぼちゃを裏ごしするときにね…
気が付けば外で雀が鳴いていた。
晴れやかな気持ちで朝日を浴びながら万事屋に帰ると、新八と神楽がニヤニヤと笑いながら俺を出迎えた。
よかったですねぇ、銀さん、長い長い片思いもようやく終わりですか。
食ったアルか、銀ちゃん、とうとう●●のこと食ったアルか。
そう言ってからかってくる二人を見て、俺は●●の家を訪ねた本来の目的を思い出した。
ああ、うん、食ったわ、ぶりの照り焼きとかぼちゃプリン。
俺が小さな声で返事を返した瞬間、呆れたような、蔑むような視線を向けてきた二人を見て、ようやく俺は過ちに気が付いた。
昨夜のあれは大人の男の余裕アピールなどではない。
ただの主婦力アピールだ、と。

***

「女の家に押しかけて朝まで料理トークとか、いったい何がしたかったアルか。パジャマパーティーか。」
「やめなよ神楽ちゃん。むしろ銀さんが●●さんの家にまで押しかけられたこと自体が奇跡なんだから。」

容赦の無さすぎる二人の会話に、俺のテンションは下がる一方だ。
あのハロウィンの夜の失態を誰よりも悔いているのは俺だ。
どう考えてもあれは女子会のノリだった。
いい年した男女が深夜に盛り上がる方向性が明らかにおかしかった。

「この間●●に会ったとき、『銀ちゃんにまたお料理習いに行くね』って言ってたアル。完全に銀ちゃんは●●の料理友達のポジションが板についてしまったネ。」
「もしかしたら主婦仲間かもしれないよ。」
「もう男としても見てもらえなくなったナ。」
「うっせーんだよ!!だからこうしてだな、前回の反省を活かして朝から●●といちゃつく作戦を練ってんの!次はしくじらねーから!!」
「え?」

今に見てろよ、と鼻息荒くガキどもに宣言すると、目の前で妄想トークをしていたさっちゃんが目を丸くして俺を見た。

「んだよ。テメーも何か文句でもあんのかよ。言っとくけどな、今度は完璧だから。クリスマスは●●を万事屋に泊まらせてスイーツ会するって誘い出す予定だからな。一日あいつのスケジュールを押さえとけば次はどうにか…」
「でも、銀さん、」

ハロウィンは深夜にノープランで突撃したことが敗因だった。
ならばクリスマスは朝から丸一日●●の予定を押さえればいくらなんでもチャンスが巡って来るはず。
しかし、完璧な俺の計画はさっちゃんの一言で崩れ去った。

「銀さん、今年はイブもクリスマス当日も平日よ。●●さん仕事休みなの?」
「…あ。」
「…またですか。」
「バカアル。」

一般的な社会人のカレンダー感覚を持っていないこと。
それが今回の敗因となった。

***

「ババア、一番強いヤツくれ…。」
「たま、オイル持ってきな。」
「誰が工業用アルコール欲しいって言ったよ。ここは戦後の闇市か。殺す気ですがコノヤロー。」
「モウ既ニ死ンジマッテンジャネーカ。ソノ目モ、男トシテモ。」
「その猫耳焼き払われてーのか、団地妻。」

クリスマスイブ、結局開催されたのはスナックお登勢でのいつもの飲み会だった。
●●はいない。
仕事が終わり次第参加するように、と神楽から声掛けはしたようだが、二十一時を回っても●●が現れることはなかった。
クリスマス用のチキンもケーキもあらかた食い尽されスナック菓子や酒瓶ばかり転がる会場は、クリスマスパーティーの雰囲気などとうの昔にかき消されてしまっていた。

「まったく。いい歳した男が情けないったらありゃしない。女々しい真似はよしな。」
「うっせーババア。俺は女々しくなんてないですぅ。ただちょーっとだけそこらの女より料理スキルが高くてスイーツ談義ができるだけで…銀さんは立派な男の子なんですぅぅぅ。俺は●●の女友達ポジションが欲しかったわけじゃねーんだよぉぉぉ。」
「銀ちゃん、現実を受け入れるネ。もう銀ちゃんのイブもクリスマスも終わったアル。あとは大晦日を待つだけヨ。」
「それ、イベント的なこと言っている?それとも年齢のこと?神楽、お前どこでそんな微妙なお年頃を暦に例えることなんて覚えてきたの。今はどっちの意味でも辛いからやめて。」

じっとりと神楽を睨んでやれば、俺の視線など痛くも痒くもないといった風に鼻で笑われた。
クリスマスイブの夜だろうが関係なくいつもの酢昆布を齧るマセガキのマイペースさが、今は少し羨ましい。

「ほら、神楽ちゃん。これ以上銀さんを刺激しないの。もうどうにもならないんだから。そんなことより、ほら、サンタさんから貰うプレゼントを考えとかないと。」

さりげなく神楽よりもえげつないことを言ってのけた新八は、俺に嫌味をぶつけて楽しむ神楽を連れて席を外した。
私、肉まんを頼むアル。他になにかないの。じゃあ、あんまんもつけて欲しいネ。
そんな会話をぼんやり聞きながら、もう何杯目かも忘れてしまったグラスを煽った。
今年は神楽のサンタ役は新八に頼むしかないのかもしれない。
毎年恒例の神楽の枕元にプレゼントを設置するサンタ役への自信がなくなってきていることに、酔いが回る頭の片隅で気が付いた。

「バカだねェ。あんたも。」
「人間はみんな恋をするとバカになるんですぅ。妖怪化しちまったババアは忘れちまったかもしんねーけど。」
「柄にもないことを言ってるあんたの方がよっぽど気味が悪いよ。重症だね。」

グダグダと愚痴を零す俺に返すババアの声に棘はなかった。
今年のクリスマスは、クリスマスや大晦日に例えるまでもなく暦を何周したのかもわからないようなババアに慰められて終わるのか。
俺はどん、とグラスをカウンターに叩きつけるように置いた。
今日はもう、とことん飲んでやるしかない。

「サンタさん、俺にハッピーな夜をください。」
「あんたの頭はいつだってハッピーに爆発してんだろーが。」

***

甘い匂いがした。
ケーキやプリンのような砂糖の甘さではない。
ふわりと鼻先を掠めた途端に霧散してしまうようなあっさりとした、しかし懐かしさを伴う甘さ。
記憶のどこかに残るその匂いの正体を掴むべく、俺は夢うつつのまま鼻を引くつかせた。

「銀ちゃん、起きたの?」

耳をくすぐる優しい声に意識が浮上した。
アルコールのせいか酷く重い瞼をこじ開ければ、甘い匂いの正体がいた。

「…●●?」
「やっと起きた。」

そう言ってくすくすと笑う●●の背後に天井が見えた。
ゆっくりと頭を動かすと、頬にしっとりとした柔らかな感触。
俺は●●に膝枕されていた。

「…は?なんで?え?どういうこと?」

眠りに落ちる前の状況がまるで思い出せず、俺はぼんやりと要領の得ない問いかけを繰り返す。
スナックお登勢のカウンターで飲んだくれていたことは覚えている。
だが、そこから眠りに落ちるまでの記憶がない。
視界の端に映る酒瓶や食い荒らされた後のケーキの箱から、今俺が膝枕されている場所がスナックお登勢のソファの上であることだけがわかった。
戸口から差し込む日光が朝が来ていることを知らせている。

「…全然覚えてないの?銀ちゃん。」
「…なにが?」
「酷い。」

そう言って●●は頬を赤らめた。
…どういうことだ。

「え?ちょ、なに?俺、昨夜何やったの!?」
「ホントに覚えてないんだね、銀ちゃん…」

眉を寄せて不満そうな顔をする●●の顔に少しの間見惚れた。
しかし、●●の言った一言で惚けていた俺の頭が一気に覚醒することになる。

「銀ちゃんがあんなに頼むからやったのに。酷い。」

口を尖らせて文句を言う●●の格好をよく見るとサンタのコスプレをしていた。
俺が密かに用意していた萌え袖仕様のワンピースだ。
まさか昨夜の俺は、●●にこれを着てくれと頼んだのだろうか。

「もしかしてその格好…俺が頼んだのか?」
「うん。すっごくドキドキしたんだからね?」

そう言って胸に手を当てる●●の可愛らしさに俺は衝撃を受けた。
どういうシチュエーションで俺は●●にコスプレを頼んだのか。
そして●●がドキドキするような何かを俺がしたのか。
何一つ覚えていない自分の脳みそに衝撃を受けた。

「銀ちゃんったら全部終わった後、急に膝枕しろって言って寝ちゃうし…。」
「ぜ、全部終わった後ォォォ!?」

何を終わらせたんだ。
夜のプレゼント交換か。
それとも俺の儚い野望か。
二の句が継げずパクパクと口を開け閉めする俺を見て、●●は困ったように笑った。

「でも、銀ちゃんが本当に優しい人なんだってことがわかって、ちょっと嬉しかったよ。」

はにかむようなその笑みを見て、俺は当面の間禁酒する決意をした。
パチンコもしばらくやめよう。
仕事も少しは真面目に探してこよう。

だからサンタさん、俺にタイムマシンください。

俺は心の中で切実な祈りを捧げた。


●●が”ドキドキした”のは、俺に頼み込まれて神楽の枕元にこっそりプレゼントを置くサンタ役を務め、神楽が起きないか緊張しただけだったという事実を知るのは、すっかり酒が抜けたその日の夕方であった。


催淫TO☆NIGHT = サイレントナイト
さすがに苦しいことは自覚しております。

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