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▽ 今はまだ…


"イゾウときいて心当たりはあるかしら?"

そう問いかけるリナさんに私は頷くことで精一杯だった。

だって、その名前は、私が1番愛して会いたくてそばにいてほしい人の名前だから…

「良かった…間違ってたらどうしようかと思ったわ」
「あの…」

張り詰めた空気から一変し、リナさんは至極安心した表情を見せた。
私は何故リナさんがイゾウさんを知っているのとか、何故私がイゾウさんに心当たりがあるのかとか頭の中で様々な疑問が次から次に溢れ出てくる。

「実はね、イゾウからあなたの話を聞いていたのよ」
「イゾウさんから?」

リナさんはにっこりと笑うとイゾウさんがこの世界に帰ってきたあの日、イゾウさんに全ての話を聞いたと言う。

「あいつはこの世界に必ずくる。見ただけで多分すぐ異世界の奴だとわかるはずだからって。私も初めは半信半疑だったんだけどねぇ」

そう言ってこちらを見て眉を下げるリナさん

「捕まった時にあなたを見た時、あ、この子かもって思ったのよ。こっちの世界の人の感じがしなかったから。匂いが違うっていうのかしら?とにかくこの子だ!って思ったのよね」

あぁ、だから私を助けてくれたのか。
そう考えると合点がいく。

確かに私とリナさん、さっきの男の人もだけどどこが違うような気がしないでもない。
雰囲気、なのか違和感が少なからずあるのは確かだ。

そういえば、と私は口を開く。

「あ、あの…」
「ん?」
「えっと…その…」

いざ問おうとすると何故だか声が出ない。
別に即しているわけでもないし、ただ普通に聞けばいいだけだ。
なのに少しこの言葉を口にするのは気恥ずかしさが込み上げてきてしまう

なかなか言い出さない私にリナさんは思い出したかのように、クスクスと笑いながら教えてくれた

「あ、ごめんね、イゾウ今いないのよ」
「え?」
「島に降りてるの。この船にはそれぞれ隊があってね、今回はイゾウの隊が島に降りるの。前回船番だったから」

ガッカリ。
とまではいかない。
どこか少しホッとした。
なんだ、イゾウさん、今いないのか

「早く会いたい?」
「へ?!」

ニンマリと、まるで青春を謳歌している学生を見るおばさんのような顔をしながら私に問いかけるリナさんに恥ずかしくなってきた。

「べ、別にそんな事は…」
「いいのよいいのよ!会いたいものね。知らない世界に来て大切な彼にすぐに会えない切ない気持ちは痛いほどわかるわ」

両手で自分を抱きしめながらそう言うリナさんは一体いくつなのか不思議に思った。

会いたい。けど、何を話せばいいのかその第一声はなんて言えばいいのか、私は会いに来たと言えば少し語弊が無きにしもあらずだが、こっちに来たのだ。
イゾウさんに会いたいという気持ちがそうさせたのも事実でいつ会えるかもわからないのに胸の奥がぎゅうっと締め付けられ脈を打つ音が段々と早くなった。

「運が良ければもうすぐ、あるいは夜になれば一旦船に戻ってくるわ」
「…運が悪かったら?」
「2.3日はまだ先かしら?」

そ…んなに…
いや、でも心の準備的な意味でそっちの方が助かるかもしれない…

「それまではゆっくり体を休めましょ。あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。改めまして、リナよ。よろしくね!」
「…なまえです。よろしくお願いします」

にっこりと綺麗な笑顔を向け差し出されたリナさんの手を握った。
人とこうして握手するなんてイゾウさん以来だな…。

あの時の事を思い出し、リナさんの暖かさに触れ、なんだか照れくさいような嬉しいような感情が心の中に溢れ出してきた。

「それにしても遅いわねぇ。何やってんのかしら」

まったく。とリナさんが扉の方に目を向けると、軽快なノックの音が聞こえてきた

「やっと来たわね。遅いわよ!」
「わりぃわりぃ。そんな怒んないでよ」

扉を開け現れたのは、なんとも逞しいリーゼント頭の男の人だった。

何この人…顔に傷もあるし…

「おっ、この子が例の?俺サッチってんだ!よろしくな!」
「え、あ、はっ…よろしく…お願いします」

勢いに圧倒され、ビクリと肩を揺らすとリナさんがぎゅっと抱きしめてくれた。

「ごめんねぇ、ここの男共はほんっっとでかくて怖くてバカばっかりなの!」
「リナひでぇ!!」

力いっぱい抱きしめられリナさんのけしからん胸に顔を押し付けるような形になり、息が苦しくなった私はリナさんの腕をタップし解放を求めた。
ほんの数秒ぶりの酸素を胸いっぱい吸い込んで吐き出すと、リナさんは、やだ、ごめんね。と女の子特有の可愛さを出して謝ってくれた。

「とりあえずお腹空いたでしょ?口に合うかはわからないけど一緒に食べましょう?」

ベッドの脇にあった小さなテーブルを出し、サッチさんが持ってきたプレートをテーブルに置いた。

白い湯気がたつ変わった色のスープに、野菜がたっぷり入ったサンドイッチ。自分の世界ではきっと、食べることのできない料理。
イゾウさんは毎日こんなおいしそうなものを食べているんだろうか。

いただきます。と両手を合わせスープに口を付ける。

「あ、おいしい…」

体の中に染み渡って中から温まっていくのがわかる。

「だろ?スープで疲れを癒してサンドイッチで体力を回復させる!野菜も肉もたっぷり入ってるからよ」

さすがコックさん…なのだろうか。
少しずつ口へと料理を運ぶ私を見て満足そうな顔で頷いている。


「ねぇサッチ。イゾウはまだ戻らない?」
「イゾウ?あー…」

リナさんの問いかけに歯切れの悪い返事を返した。

「あいつ…なーんか厄介な事に巻き込まれたっぽいんだよな…」

サッチさん曰くイゾウさんは私がこの船に来る少し前に船に戻ってきたらしい。
私が聞いても何の話だかさっぱり分からなくて、リナさんに視線を向ける。

「簡単に言えばバカな海賊に売られた喧嘩を買っちゃったってところかしら」

イゾウさんのいる、この白ひげ海賊団は名前を聞けば逃げ出す者が多いらしい。
けど、それでも首を狙って立ち向かってくる輩もいるらしい。
イゾウさんがどんなに強くても、数が数なだけに結構てこずっているらしい。

「少人数相手にそんな大人数で…卑怯です」

この世界がどういう世界なのかはまだ分からない、けど、そんな…

私が少し怒りを含ませながらそういうと、リナさんとサッチさんが顔を見合わせ、ぷっ!と吹き出した

「あはは!いいねぇ!イゾウが聞いたら怒りくるっちまうんじゃねぇの?」
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。イゾウは強いから」

強いから。

そういえばイゾウさんもそんなことを言ってたっけか。
だとしても、心配なものは心配なもので。
サッチさんはどこがそんなに面白いのかツボにはまっていてさっきから笑いが止まらず咽返っている。

なんか…むかつく。

「なまえちゃん」

ふいに名前を呼ばれ、リナさんの方に顔を向ける。

「大丈夫よ。イゾウは強い。どんなに敵が強くても、どれだけ人数が多くても仲間の…家族の為ならイゾウはどこまでも強くなれるわ」

だから安心して。と綺麗な手で私の頭を宥める様に撫でてくれた。

「…はい」
「さて!じゃぁイゾウが戻ってくるまでなまえちゃんは私と楽しいことしましょー!」
「え?リナ?俺は?」
「女の子だけでーす」

そういうとリナさんはサッチさんを部屋の外へ押し出した。
なんか…さっきもこんな光景を見たような…

「もう立てそう?」
「え?あ、はい…」
「じゃあ行きましょ!」

そういうとリナさんは私の手をぐいぐい引っ張ってくる

「え?!あ、あの!!行くってどこへ?!」

リナさんはくるっと私の方へ振り返りにっこりとなにか企んでいるような笑みを浮かべてこういった。

「親父のとこ!」


今はまだ…
さー!行くわよ!とどんどん進んでいくリナさん。

「え、ちょ、待って!心の準備が!!」
「大丈夫大丈夫!!」

私の静止を受け入れることなく足を進めるのであった。




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