Novel
文明の機器に遊ばれる

起きなきゃいけない。
けれど、まぶたが重くて開いてくれそうもない。


「なまえ、時間だ。起きな」
「うん、……うん」


私を起こそうとする声の持ち主は、優しく頭を撫でて起こす気がなさそう。
テレビからは朝のニュースが流れている。


「時間だ、30分くらい前にな。あと20分で家を出る気がないなら、会社に連絡いれないとなぁ?」
「………やばっ!」


私が飛び起きると、声の主はくっくっと笑っていた。

彼は、イゾウ。
人ではない。

最近流行の携帯。
白ひげシリーズ、No.16 イゾウ。

今では少し古くなってきたこのシリーズは、癖が強い機種ばかり。
それでもコアなファンが多く、未だに生産され続けている。

比較的扱いやすいNo.1とNo.2の人気が高いけれど、私の持ってる機種だって負けてはいない。

見た目も性能も、女性からの人気が非常に高い。
ただ、少しばかりわがままで、“彼”に気に入られないと、なかなか働いてくれない。
目覚まし機能すら「自分で起きな」と言って拒否し、人型になってくれないこともあるそうだ。


「もっとちゃんと起こしてってばぁぁぁぁ!」
「俺は携帯だ」


じゃぁなんで、そんなに優しくするのよ。撫でたり、慰めてくれたり。
そりゃぁ、お前さんが持ち主だからな。

何度、同じやり取りをしたか。


「過度の期待はよくない。起こす手伝いはしても、起きるのは自なまえ身だ。何度も言ったな」
「だって、イゾウが」


私も、“彼”も、はっきりと言葉にしちゃいけない感情を持っている。
そんな気がする。


「さっさと起きたいならスヌーズ機能は切っとけ。無機物に期待するもんじゃねぇよ」
「イゾウを無機物って思ったことなんか」
「なまえ。お前さんはいつか相手を見つけて結婚する。今、思ってることはただの気の迷いさ」


冷たく言葉で突き放すくせに、イゾウは私の髪の毛をクルクルと弄ったり、頬に手を当てて優しく撫でる。


「ほら、さっさと支度しな。それとも会社休むか?休めば俺ともっと遊べるな」


どうする?とゆるく笑うイゾウは、とても携帯には思えなくて。

【文明の利器に遊ばれる】

「うん。熱が出たということで」
「馬鹿いってねェで、さっさと着替えな。いつでも遊べるだろ」

title by 空をとぶ5つの方法



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