Novel
年下なイゾウさん

「これ、やっとけ」

「……やっとけ、じゃないわ。お願いしますでしょ」

「なんか言ったかい?」

「別に」


例年に比べ、随分と暖かい冬が続いたある日の放課後
暖かいからといって、なんら変わりのない日常
そして、なんら変わりのない委員会活動


みんなが受験の武器として入りたがる生徒会
そこになんの情も湧かないまま属している私は、再来月に卒業を控えている

つまり、高校3年


「おい」

そしてあたかも普通に、当たり前のようだと言い張るように馴れ馴れしく私にタメ口で呼び掛けるのは2年のイゾウ


つまり、年下


イゾウが生徒会に入ってきたのは2年から
生徒会とは、だいたいが1年の頃から入ってくるものだけれど、なぜかイゾウは2年から急に入ってきた

成績優秀

教師からも生徒からも人気のあるイゾウに一度、「どうして生徒会に?」と聞けば「フッ」と鼻で笑われた

意味がわからず無視を決め込めば、なんとも愉しそうな顔をしたのを覚えている



「なに?」

「終わった」

「なにが?」

「これ」


これ、とイゾウが差し出したのは1枚のプリント
来期の生徒会予算案が書かれたものだ

来期の予算案など、卒業する私には関係ない話だが、
これが毎年3年が仕上げている最後の仕事だ

だから私もそれをこなす


「……はいはい」

「なぁ」



イゾウからプリント取り上げようと、端をぎゅっと引っ張れば簡単には離れなかった

ピンと張ったプリントが、今にも破れてしまいそう


「……俺から」

「え?」

「俺から、卒業するな」



言い捨てたイゾウの顔に、一瞬寂しさが浮かぶものだから
私はよく聞き取れないフリをする


「……プリント、離して」

「答えはなんだ?」


少しだけ強気な顔
一瞬でここまで顔を戻せるなんて、さすが、なんて思ってしまった自分が悔しい


「な、にが?」

「俺から卒業するな」

「だから、」

「俺から……卒業しないで、ほしい」



真っ直ぐに見つめる真っ黒な瞳
あまりイゾウの顔なんて、まじまじと見たことはないけれど
ああ、カッコいい、なんてなんだか胸がきゅんとした



「しないよ……、あんたから、卒業」


カタコトに出た私の言葉に、イゾウはイヤな笑みを浮かべて、またバカにされるかと思ったのに、
「そうか、」なんて見たことない顔をするものだから、私は恥ずかしくなってプリントをそっと手離した



【プリントがカタカタと揺れるのは、私じゃなくてあなたの鼓動で】
【この感情に名前が付くのは、そう遠くはないようだ】


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