Sang Conte | ナノ



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10/16 04
 お腹を満たして寝る姿はまるで子どものようだと思いながらレンはリンを抱き上げると立ち上がる。立った瞬間に立ち眩みがしたが、それはリンに血を吸われた名残で所謂貧血に近い状態だと知ったのは、リンと暮らし始めてすぐのことだった。それでも動くことに支障はなく、寝ればすぐに治るので気にしないことにしている。
 リンをベッドに寝かせると意識のない彼女は無防備な姿をレンに晒す。黒を基調とした服の下から足を覗かせていて、少しでも動けばスカートの裾が捲れて下着が見える。肌けた胸元からは既に成熟しつつある胸の膨らみを見せていて、リンの姿は男にとって目の保養であると同時に毒にもなる。
「……これだけ無防備な姿を見せるのに、まだ喰われてないっていうのがすごいよね」
 リンがまだ純潔を保っていられるのは人ではなく吸血鬼だからだろう。たとえ意識がなくても己を害そうとする者に反応して己が身を守ろうとする本能は人にはないもので、逆に心を許した者には何も抵抗しない。つまり、今からレンが襲っても抵抗せずに全てを受け入れようとするのだ。
 今のリンが最も心を許している人物はレンだけで、他の者には拒絶反応を見せ――それがひどい時には本能のまま人を殺そうとする。その拒絶反応はリンが記憶をなくした時の影響なのだが、そうなってしまったのも仕方のないことだとレンは思っている。
「違うから怖い。殺してしまえ、なんて馬鹿なことを考えるから、リンは文字通り化け物になったんだよ」
 もう、あの頃のリンはどこにもいない。人間と歩み寄ろうとしていた彼女も、吸血鬼の派閥に対抗して人間を守ろうとしていた彼女も、人間が消してしまった。
「だから俺は守る価値なんてないって言ったんだよ、リン。人間は汚い生き物だから餌にされて死んでも仕方ないって」
 自身の欲のために他人を簡単に蹴落とし、時には命を奪うことさえ厭わない人間は果たして綺麗な生き物だろうか。詭弁を吐くことで自身を偽りの美で飾る者は守られる資格などあるはずもない。
 ――私はそれでも人間を守りたい。だって人間は綺麗な心を持っているって知ってるから。今はそれを忘れてしまっているだけだよ
 昔のリンの言葉が脳裏に甦って、レンは心の中でそっとその言葉を否定する。人間に綺麗な面などあるはずがないのだと、あるとすればそれは虚像にすぎないのだと。
 リビングに付けっ放しにしていたテレビはニュースを報道していて、アナウンサーが真摯に話しているのが、最近起こっている凶悪な事件で――被害者は既に三十人を超えていて死者も出ているというのに、犯人の正体さえ掴めていない――唯一わかっているのは被害者は首筋に牙を立てられたような痕があるということだけ。
 今もこの地のどこかで襲われて命を落とす者がいるのだろうが、レンには関係のないことで、煩わしくなったテレビを消してリンと同じように深い眠りに落ちていった。


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