▼ ポッキーの日
佐藤瑞貴(さとうみずき)
風紀委員長 パティシエの息子。料理好き
阿部正倫(あべまさみち)
生徒会会長 甘党。基本的になんでも食べる
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──11月11日。
今日はポッキーの日だと聞いて、即座に甘いものが好きなあいつにはぴったりの悪戯が思い浮かんだ。
「会長も何か飲みますか?」
ちょうど今日の仕事が一段落ついたとき、副会長が給湯室から顔を覗かせて聞いてきた。
「ああ、紅茶を頼む」
そう言うとわかりましたと言いながら顔を引っ込め、がちゃがちゃと準備する音が聞こえた。
まもなくして、紅茶の良い香りが漂ってくる。
「お待たせしました」
「さんきゅ」
副会長は毎度毎度、わざわざ俺の席まで運んで来てくれる。律儀なヤツだと思う。
紅茶の香りを楽しんでいると、会計が給湯室へ行き何やら箱を持ってきた。
「ねえねぇ、この前もらったこのお菓子食べなーい?」
「ああ、いいですね」
会計がふたを開けると、そこには美味しそうなチョコレートやクッキーがずらりと並んでいた。
「すごーい! みんなで食べよお」
会計が手招きして皆を呼ぶ。
だがしかし俺様会長を演じている、わけではないが、この性格で しかも180近くある男が甘いものを欲しがる姿がな、イメージに反するらしい。親衛隊ができた当初、食堂で偶然合席した親衛隊隊長と昼を食べてデザートを追加注文しようとしたら驚かれたのが記憶に新しい。
それ以来、別に人目が気になるわけではないが人前では甘いものを食べないようにしている、が、目の前にあんなうまそうな菓子があるのに食べないやつがいるだろうか!いや、いるぞここに!
役員の俺へのイメージが崩れるが、しかし大の甘党の俺が菓子を食べないのも…ううむ。
一人ぐるぐる考えていると会計と書記が目を輝かせながらクッキーを手に取って口へ運んでいくのが目の端に入った、
「よお、邪魔するぜ」
瞬間、風紀委員長が生徒会室に入ってきた。
「…、佐藤か。なんだ?」
「書類届けに来た」
「珍しいな、急ぎか?」
「のはついでで、ほらコレ。開けてみろよ」
言いながら、持っていた包みを手渡された。促されるままに包みを開けると、棒状のクッキーらしきものと色とりどりの瓶が数個。
「…? なんだ?」
「見てわかんだろ。クッキーにジャムとクリーム。つけて食べるとうまいぜ」
いや、わかるがな、今この場で食えと? 自室ならまだしも、生徒会室で、しかも副会長たちがなぜかこちらに注目してる中で食えと…?! 俺が人前で食わないの知っててお前は…!
「なんだ、要らねえのか?せっかくお前のために作ってきたんだが…しょうがない、副会長たちに、」
「ちょ、食う!」
思わず立ち上がって包みを持っていこうとする佐藤の腕を掴んだ。役員たちの目が驚きに見開かれたのが視界に入る。
「…あ、いや、」
「まあそうだよな、甘党のお前がおあずけくらうのは耐えらんねぇよなあ?」
「…性格悪りぃぞ」
「なんとでも。それより、食ってみろよ」
俺は不貞腐れながらクッキーを手に取り、手近にあった瓶につけて、一口。さくっとした食感のすぐ後にベリーの甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
「…! うまっ!」
「当たり前だろ、俺が作ったんだ」
「このジャムもか?」
「ああ」
「すげぇ…!」
バレたのなら、仕方ない。開き直った俺はもくもくと他のクリームやジャムにクッキーをつける。俺好みの甘さといろいろな味のクリームに飽きることなく食べ進めていく。
「正倫」
夢中になって食べていると不意に名前を呼ばれた。顔を上げた瞬間、頬に温かい何かが触れた気がした。
…つか、顔が近くないか。
「え、なに」
「クリームついてた。じゃあ俺は戻るぜ。ごちそーさん」
言うが早いか、颯爽と生徒会室を出て行く佐藤。その素早さに呆気にとられたのも束の間、先程の頬の感触の正体がわかり、顔に熱が集まった。
「くそ、あとで覚えてろよ…」
fin.
2012.11.11
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