さみしい背中の細い構成枠をひとつひとつ厭らしく舐めあげた。ざんこくにてらす月明かりにおぼれそうな泣き顔をみられたくない本音を直隠しにしたくて。事後の気だるい躰にひびく淡い刺激にぴく、と小さく反応はするものの、目の前の彼はそれだけだった。
夜闇を一蹴して空虚の皺がよるシーツを彼ごと引き寄せて、無垢な背中にくちづけを落とした。何度も何度も何度もなんども。背中にきざまれた、あかい焦燥は馬鹿みたいにきれい。しろい細胞膜の下に浮き出た背骨にしたを這わせていっしゅんの快食を悦んだ。れろりと下品な効果音がつきそうにべったりとした蠢きに、彼は、ふるえる躰と共に鼻をならす。そのいっしゅんにできた隙に、彼をやさしく反転させた。驚きにひらいたくちびるにそのまま嚼みついて。拒絶を示唆する舌ごと口内の奥底から掬い取って、じゅぐ、と音階を奏でて唾液を吸い取った。


「んっ、ばかっ…んン、」
「…はあ、シズちゃ…っ、んぅ」


怠惰を貪り尽くす舌ごしの息遣いに、両頬に添えたつめたい指先ごしに、生きているあかしが伝わってくるその燦然とした真実にくらくらと目眩がした気がする。だって、その真実が何よりもうつくしく感じたのだ。世界を照らす朝陽より若葉から滴る水の飛沫より、吐いて吸い込むその呼吸の一瞬いっしゅんが何よりも。なによりも。かさねた舌にくちびるに寄せる想いに彼が気づくことがないとしても、だけれどもそれは自分の中では不変であり永遠なのだ。


「すき。すきだよ、だいすき。すき。すき。だあいすき。ねえ、シズちゃん、すき」


離れたくちびるとくちびるの間でこぼれるあますぎる言葉にいっしゅん目を見開いて、目の前の彼はふっと視線を逸らす。愛しくもあり、だけど睥睨してきた世界に取り残された自分の中にあふれる数少ない真実を享受して。
でもみとめてくれなくてもいいよ。君がいればそれでいいんだ。例えばだいすきなにんげんに嫌われても、それでもいいと思えてしまいそうだから。ね。


…嘘じゃないよ。






嘘じゃないよ






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