粘膜と粘膜が重ね合わさる感覚にはどうしても慣れることができない。精一杯くちに含んだ性器は劣情と慾望とその他もろもろを纏って、呼吸器を圧迫する。策士は口許をみにくくゆがませて俺の後頭部をはげしく前後させるから、げほげほと湿った咳があふれた。喉奥につきつけられた熱でやけどしそうな脳に舐めるような声。憂悶に晒された溜め息。褪めた赤目にうつる景色に俺のなかみまでが見透かされていそうで厭だから、きつく、男をにらんだ。


「まったく、色気ぜろだね、シズちゃん」


くちからはみ出る性慾の液を、親指で乱暴に拭い取ったおとこはそのまま自身の舌でその味を愉しむ。ぴくりと眉間にしわがよって、ああ、やっぱりまずいなあ、と吐き棄てる。馬鹿じゃねえの、自分の舐めるとか。手前も大概狂ってやがる。そうやって嗤ってやれば、左肩にかかる足裏の感覚。力を籠められた瞬間に、両腕を拘束されて支えのない俺の体はリノリウムにあっさりと縫い付けられた。解放されたのどの奥まで引く粘液が気持ち悪い。なにもかもがぐちゃぐちゃだ。馬鹿。ひゅうと細くなく喉の声はジッパーをあげる無機質な金属音に掻き消される。横たわった床にみずたまりをつくる口許の唾液は必要以上の粘度をたもったままで、ああああ気持ち悪い。目の前に屈み込んだ男のくちもとが醜く歪んでいる。


「ああもう、シズちゃんへたくそ、萎えちゃった」


せきにんとってよね。
その歪んだくちから微かに覗くまっかな舌が欲情しているのが直感で解る。なえたくせに、どっちなんだよ、とか、文句を吐き出すために開いたくちに男のそれが重なって。耳を劈く水音に俺も慾を急き立てられて、触れた舌の体温に火傷しそうで。絆されるのは癪だけれど、体温にも快楽にも罪はない、からと。言い訳がましいそれを脳内にしまいこんで、心地いい舌を悪戯に噛んでやった。






欺瞞と正義と精子と矛盾






(100609)
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