帝人と臨也が新宿の同じマンションに住んでる
帝→臨(静)
こsssssっそり大胆に幸長さんに捧げる!




蠢く幼虫を目の前にしてシャッターを切ると、まだ蛹になりきれないその真白な躰にフラッシュはきらめき反射する。そのきらめきは、閃光に包まれたように狭い部屋をほんの一瞬だけ白い闇に染めて、視細胞を破壊した。そのまま僕は目を閉じ、灼け付く微熱を飽きるほどに感じたあの人を、瞼の裏に蘇らせる。その蠢く白い躰がひどくあの人に似ているのだ。








広々としたリビングの壁一面には天井まであるガラス窓が打ち付けられている。二台のパソコンが並んだデスクとその窓の間、彼はリノリウムの床に躰を懐かせて、僕が猛禽のようですねと揶揄した瞳を快楽に溺れさせていた。すこしだけ沈んだ空気が彼のがらんどうを撫ぜると、最大の熱に冒された躰はそれだけでひくりと跳ね上がる。なおざりにされた四肢には劣情のかたまりがまとわりついて、それはさながらひとつの染み。あまく滲んだ赤はいつも以上に底無しみたいで、いつも以上にきれいだった。僕はどこか夢見心地で、それでも彼からこぼれる吐息だけがいやに現実味を帯びていて、熱い。


「え、」


いざやさん。やさしいくらいの音色でいとおしいひとの名前を呼ぶと、喉奥で声を轢き殺したような、引き攣ったようなそんな音が鼓膜にとどいた。滲んだ赤い視細胞が僕の姿を確認するや否や、霞がかった彼の視界は真夏の空のようにきっぱりと晴れ渡る。見下ろす僕の笑った目許が彼の瞳の中にみえると、僕の機嫌は殊更によくなった。
それから僕の全体重をかけて彼の心臓と肺とその他もろもろを圧迫するように華奢な体に跨ってカメラを構え、劣等にゆがみ始めた表情を僕は躊躇いなしにカメラに収めた。シャッターを切る度に、くるしいくらいの光が孵り、穢れを知らない真白な躰にフラッシュはきらめき反射する。そのきらめきは僕の視細胞を一瞬だけ破壊して無に還った。それでも僕がシャッターを押し止めないのは、目の前のぼくのかわいい人が、いやだやめてと劣情に塗れた指先でかたくなに拒むから。だから余計に切り開いてしまいたくて。カメラを右手に構えたまま空になった左手で空気に晒されたままだった彼の慾望器をするりと撫ぜると、粘液がぐちゃと音をたてた。


「っあ、‥みかどく‥っ、や、‥ぁ」


すると鮮明さを取り戻しつつあった瞳は血に滲んだように更にあかくなり、戸惑いと快楽と羨望とに侵食されていくのがわかった。それがたまらなく気持ちよく感じる。彼をそんな目にすることができるのは、ただの僕だけだということを痛感しているのだ。


「お願、‥っ撮らないで、っ‥」


かわいい。かわいい、かわいいかわいい可愛いかわいい可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いかわいい。頭を振るとなびく濡れた黒髪も懇願する幽かな声も僕の腕に必死にすがりつく細い構成線のゆびもシャッターを切る度に荒くなっていく吐息も、熱くなる躰も、おぼれるひとみも。ぜんぶぜんぶ、全部、かわいい。ぼくのいとおしいひと。脳内の愛しいが零れだして仕舞いそうになるのをこらえながら、口許をひどくつり上げて彼にしか見せない最上級の笑顔をおくると、染みひとつない彼の皮膚細胞はゆるやかに赤くそまった。知っているのだ、彼自身がこの嫌味なくらいにやさしい笑顔に弱いことも、また彼がそのことを自覚していることも。


「かわいい、いざやさん」
「や、ぁ、っもう、や‥っ、ふぁ、」


一度撫でたきりだった左手でそれを扱うと、うつろの瞳で僕を見上げる底無しの真紅。こぼれる唾液をそのままにして、快楽に傅いた彼を夢中でカメラに収めた。レンズ越しに彼の虚ろと目が合うと、なんだか許された気になって口許がさらに歪んでいく。僕がシャッターを切るスピードと彼の荒い呼吸の程度が比例的に上がっていった。それを直感的に感じた。


「あ、‥みか、ど、‥くん‥っ、」


彼が穢れているのはその両手だけだろう、白濁の劣情を纏って。いや、きっとそれも穢されたのだ。彼の心情の底辺で蹲っている無意識に。そうぼんやりと思いながら一瞬シャッターを切る手を止めると、その刹那に彼の両腕は僕の首に絡みつき、ふたりの距離を縮めた。

貴方と吐息がふれあうくらいにちかい。

中てられそうだと思った。くるしい、心臓が軋みをあげていくようでくるしい。そうしている間にも彼のくちびるがゆっくりとぼくのそれと重なった。カメラが厭な音をたてて床に転がる。そんなことも気にさせない継ぎ目のないキスが何よりも心地いい。ふたりが合わせるくちびるの間からこぼれる吐息さえもったいなくて。だから放せない。放さない。


「ふぁ、んっ‥んん、ぁ」
「は、‥いざやさん、‥ン、」


蛹みたいだ。形振り構わず、成長のために惨めな躰を晒している、彼はきっと。求める最大の熱を手に入れるために、形振り構わず、。幼虫には戻れない、蝶にもなれない。それなのに僕は、未完成の蛹に捕らわれて仕舞っているのだ。








新宿の高級マンションのとある階にエレベーターが到着した機械的な甲高い音が響く。開いたドアの向こう側にいたのは折原臨也さん。僕と見かけると少し驚いたような表情を浮かべてエレベーターに乗り込んだ。僕はにこりとわらって、こんにちは、奇遇ですねと話しかけ、それからこのマンションの最上階のボタンを押す。臨也さんはこのマンションの最上階に住んでいるのだ。彼はすこし笑って、ありがとうと目を細めた。
彼には恋人がいることを僕は知っている。金髪で背の高い、池袋でとても有名な人。彼がどれくらいその恋人のことを思っているのかも、僕は知っている。彼から恋人の話は幾度となくきいた。真っ赤な瞳は愛しさで滲み、口調は明るく軽くなる。きっと今が幸福なのだろう。

だからつまり、そういうことなのだ。

玄関の鍵を開けて真っ先に向かった暗室に並べられている写真やネガのなかに、彼の姿はどこにもない。いくら探しても、写真の片隅にも写っていない。幼虫の真白の躰にフラッシュがきらめき反射したあの写真だけが、僕の底辺から込み上げるものを感じるくらい、どこかリアルで。


羽化することのない思いを抱いているのだ。






十九歳






(110508)
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