ほんのちょ………………っとモブ臨風味
臨→静




澱んだ空気を呼吸に織り込んで、しゃがみこんだのは喧騒の裏側に存在する路地裏。ビルの隙間に覗く星の瞬きを数えて眼を閉じた。見知らぬ男の腕を引っ掴んで連れ出して、愛してほしいなあなんて囁いた数時間ほど前から、景色はいくつも変わってはいないのに、心臓が厭にざわめく。逆なでに似た感情の一片にも覚えはなくて、心臓の真上を掻き毟ると鮮血が滲んだ。精液に塗れた内腿も、肩に傷つく歯型も、軋みあげる背骨の中心も、ぜんぜん不快感はないはずなのに、脳裏でちらつく光が眩しくて。コート一枚に守られたうすい躰をつたない力でだきしめたら、きちりと背骨が鳴いた。


「へたくそだったなあ」


夏の湿った空気が汗に溺れた躰をなめらかに撫でるから、そんな自分を劣等が襲う。愛してほしいと呟いたのは初めてではないし、男と繋がる行為も幾度と繰り返したけれど、いちども満たされたことはなかったと理解している。終わらない世界の真ん中に自分が存在しているような、そんな錯覚に侵食されつつ、また、愛してほしいなあ、なんて戯言を吐き出すのだ。


「…シズちゃん」


本当は解っている、満たされない躰の底辺が誰を探して、欲しがって、愛されたくて、愛していたいと願うのか。でもそれを認めてしまいたくない意思をひたむきに貫き通そうとする自分がいるから。だって、これが恋慕なんだと認めてしまいたくないと思った。淘汰された想いを反射して、ビルの樹海の隙間から零れ落ちそうな星を見詰めると、せつないと感じた。翳りを孕んだこころに産まれるあわい恋心は、羽根のように軽くて溜め息を吐いただけでも吹き飛ばされてしまいそうなほどだけれど、それは嘘じゃないと信じていたいんだ。だきしめた自分の躰に架空の体温を映し出して、すこしだけ頬があつくなった。


「きみがすきだよ、シズちゃん」


この恋慕がたとえ表沙汰になったって、酸化なんかさせるもんか!俺の心で真空管理を厳重に、きみの愛の言葉で、死んでも永遠を生き続けさせてやる。






ステップアップの鐘が鳴る






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