俺がきみを厭いなのはきみがにんげんじゃないからじゃないよ。きっときみがにんげんでもいぬでも猫でもプランクトンでもリノリウムでも、例えばそう、酸素でも、俺はぜったいぜったい、ちゃんときみを厭っていただろうね。…あは、酸素って、まるできみなしじゃ生きていけないみたいな表現で厭だなあ。でも俺は酸素なしでも生きていけるよ、だって無重力のその中に俺の意識は存在しているんだ。ねえシズちゃん、知っていた?俺はせかいの暗闇でも永遠なんだよ。
そうやって足元に跪かせたシズちゃんの頭上に言葉を吐き零して行くと、がらんどうの躰に組み込まれる肥大化した支配慾が恍惚に膿みだす感覚。彼の下半身は空気に晒されていた。


「シズちゃん、キスしようよ」
「…どうして、」
「したいからだよ。ねえ、きみは変化に乏しい生物ではないんだから、それくらい理解してよ」


上半身を大きく折り曲げて、視界の下位に存在する彼のくちびるに噛み付いた。解っているよ、どうして、の後には、俺が厭いなんだろうって続くんでしょう?シズちゃんのなかの倫理が足枷になっているみたいだけれど、ねえ、そんなのはやく失ってしまえよ。正論なんてこれっぽっちも纏わないきみの中に倫理があるということだけで笑えてしまう事実だけれど、でも俺はそれにくすぶる思いを抱いてしまったんだ。毀れてらくになってしまおうという結論に行き着けないのか行き着かないのかは解りもしないけれど、馬鹿みたいに強情なその理屈は大厭い。するすると移動した足裏で性器を撫で上げれば、膝元を侵食する慾に塗れた吐息。その熱ごとだよ。棄ててしまえ、そんな羨望。


「っあ、…や、」
「きもちいい?ねえ、俺の足は、どう?」
「ん、ぁっ…あ、」
「無視しないで、いんらんちゃん」


足で性器を舐めるたびに震える腰とそれとシズちゃんの理性が、たまらなくこの心情を埋め尽くしてくれそうで。安息を亡くしたせかいの中で、一番とおいところに居た筈の俺の膝に縋りを求めると、ひくりひくりとあまい熱が伝染。そんな痴態に舌なめずりした無意識を睥睨した。


「やっ…だ、いざぁ…!」
「あは、シズちゃんの、ぐちゃぐちゃあ」
「んんっ、ぅ、く…、あぅ…っ」
「俺の足も、汚く成っちゃったねえ…」


反動に揺れる人工色の髪の毛を握り込んで、すっかり起ち上がった慾望器から足を離す。厭だと鳴くように粘液が雫を滴らせながら、足との決別。その儘、シズちゃんの視細胞を埋め尽くしてやった。


「シズちゃんに穢されちゃったなあ」


そうしてあまく笑ってあげれば、唾液に滲んだ口許を飾る深紅を覗かせる淫靡。恍惚と快感に挟まれて、ひとみの奥底には揺れて囁く悲観的な疼きが嘆いている。あは、やらしいなあシズちゃん、そのとろけた視界にうつる俺の口許が醜くゆがんでいるのがはっきりわかるよ。ねえ、もう、つたない理性は砕けてしまったでしょう?足で性欲を促されて剰えその足を進んで舐めて、それで理性があるなんてほざいてごらんよ、劇薬の刺激ように高笑いで馬鹿にしてあげるよ。

それでもきみは気付かないのだろうか、俺はきみの心情を支配する感情の全てに嫉妬しているんだよ。…きみが、ちゃあんとすきなんだよ。

だから、厭いという言葉にかわいそうなくらい反応を見せる淋しい生き物に成り下がるシズちゃんのくちびるに、せいいっぱいの愛情を塗りたくって、すきだよと笑ってあげることにした。





毀誉して釈放





(100707)
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