※静雄と出会う前




「…詰まらない」


過ぎ去った現実に頑なに縋りつこうと必死になっているくだらない染みを指先でなぞりながら、吐き出した息は興味の涸渇を意味していた。詰まらない。思い通りに動いてくれるにんげんは半端なくいとおしいと感じているのに、折原臨也という個体のどこかで失望を失いきれないでいる現実がつめたい。熱が冷めていくような、色褪せていく、そんな感じが、自身の膝を折らせるほどに襲い掛かってくるから。解像度の低いそれと闘いながら、だれかに超えてもらいたい計画を企てるこの瞬間にも容赦なく。それを悲しいとも寂しいとも感じたことはないけれど、矛盾することによって酷く虚しくなる。それが堪らなく厭で。
でも最期には、やっぱりその染みがいとおしいんだ。寄り添うように寝転がって地面に頬をなつかせる。ざらざらと皮膚細胞を撫でる感触は慣れるものではないけれど、予測できないそれが好きだ。吐き出した溜め息によって俺の感情を分け与えられた染みを欲深い赤目に飽きるほど灼き付けて、にんげんに致してやる時よりも数倍やさしく、くちびるを寄せた。
俺を満たしてくれてありがとう。期待を、計画を、俺を、裏切らない君たちだけど、人間ならば平等にあいしてあげる。足りないのならば補いながら、いつか、思想を超えて、飽和を超えて、満たされ尽くされた俺をつくってくれたのならば、そのときは、一等にきみをあいしてあげるよ。


「会いたいなあ、…そんな誰かに」


目を瞑って脳を綴じて、静かに吸い込んだ呼吸は、鼻腔の奥深く底辺に突き刺さって、瞼を上げると泪が零れた。






人間臭い






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