朝6時半。針がその時刻を刻むとともにけたたましく鳴り響き始める目覚まし時計を止め、わたしはベッドから出た。まだ眠い目をこすりつつ立ち上がったところまではよかった。そこまではいつもとなんら変わりのない日常の一コマだった。

…だった、はずなのに。
ソファーに何かあった。いや、何かいる。まず黒くて大きい物体が目に入った。続いてひええとか情けない声がわたしの喉から絞り出される。ややあって、やっとの思いで言葉を紡いだ。

「え…何?」

自分の部屋のソファーに見知らぬ人物が寝ていた。そんな人生に一度か二度、いやまずないだろう体験を今まさに体験しているわたしの心境は、ただひたすら驚愕の一言に尽きる。考えてもみてほしい、朝起きたら自分の部屋に全く面識のない人がいるというありえないシチュエーションを。驚くなという方が無理だ。
それはわたしも例外ではなく、その場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

永遠かと感じるほど長い時間(正確には1分程度だった)が経ってから、声が部屋に響いた。勿論わたしの声じゃない。ソファーの方から確かに聞こえたその声の主は、今ちょうどむくりと起き上がったところだった。わたしのほうに背を向けているので顔はよく見えないけど、さっきも目に映った黒くて大きな頭が見える。
兵隊の隊服のような黒い衣服に、丸みを帯びた大きな黒い頭。すごく変な組み合わせだ。とりあえずかなり危ない人にしか見えないので、一応身構えておくことにした。

「あーよく寝たー」

身構えたこちらの気が思わず抜けそうなくらい間延びした声は、中性的で男のものか女のものか区別が付かない。うーんとしばらくのびをしたあとその後頭部はわたしの気配に気がついたのかくるりとこちらを振り返った。

大きな黒いものは、頭じゃなくただのカエルのかぶりものだった。
ツヤのある翡翠によく似た色の髪の毛がその端整な輪郭の線を縁取ってさらさらと動く。髪と同じ色の双眸は酷く気だるげな色に染まっていた。
その整った顔立ちに思わず息をするのも忘れて見惚れていると、視線を感じたのか今度はその人の瞳にはわたしの姿が映る。静かに近づかれて縮まった距離にびくりと少しだけ体がすくんだ。

「…アンタ誰ですかー?」

「こ、こっちの台詞です。ここはわたしの部屋なんですけども」

突然尋ねられ向こうが敬語だったからか何故だかわたしも敬語になりながら答える。でもそもそも、こっちも困っているのだけど。
すると今度はわたしの言葉を聞いて何か思案するような表情を浮かべながらまた口を開いたその人は、

「もしアンタが敵のファミリーの一員なんなら、さっさと本当のこと言わないとミー待つの嫌いなんで殺しちゃいますよー」

「は…え?」

殺す、とそんな物騒なことをまるで日常会話のごとく至極さらりと言ってのけた。
ましてや敵、ファミリーなんて訳のわからない言葉が出てきて慌てるわたしを探るようにじっと見つめるその涼やかな翠色の瞳は、相変わらず気だるげな色を孕んでいて、こんな状況だというのにわたしはとても綺麗だと思ってしまった。



こんにちは、非日常








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