微睡む

私はこたつでみかんを食べていた。ああ、穏やかな冬だ。そんな事を考えながら、本日3個目のみかんに手を伸ばす。ふと自分の手を見ると僅かに蜜柑色。みかんを食べすぎて肌が黄色くなったなどと言う話はよく聞くが、真偽ははたしてどうなのか。
くだらないことに想いを馳せていると、自室のドアが開いて端正な顔立ちの男が入ってきた。長身の男は入ってくるなり嬉しそうな顔で私を呼んだ。


「なまえ、おはようございます!」
『うわっ、トレイ!何で来たの?』
「…その反応は酷いと思うのですが」


嬉しそうな顔が一瞬にして落ち込んだ色を映す。いつも爽やかな蒼の瞳がうるうる。ああ、確かにこれはいきなり酷かったかもしれない。ごめんねと軽く謝り、トレイもこたつに入るよう促す。すると彼は嬉々として私の隣に座った。ぎゅうぎゅう。もともと一人暮らし仕様のこたつには、2人も並んで入るようなスペースは無かった。


『ちょっと…狭いんだけど。普通さ、向かい側とか座らない?』
「いいじゃないですか。こうしていた方が温かいですよ」
『暖房効いたこの部屋では寧ろ暑いから!』


離れてよ!そう言ってぐいぐいトレイの体を押すも、「そんなに私に触れていたいのですか」と微笑まれてしまっては反論する気も失せるというものだ。トレイを向かい側に座らせる事を諦め、ため息交じりにみかんの皮を剥く。するとトレイはみかんをみて、ハッとしたように言った。


「みかんといえば…豊富なビタミンが」
『あーー、いい、いいから!そういうのいらない!』
「…冷たいですね」


しゅん。
トレイが項垂れると金糸のような髪がさらりと流れた。撫でてやりたい衝動に駆られるが、調子に乗りそうなので我慢。
はいはいごめんねとだけ言うと、彼はむっとした顔でこちらを見てきた。


「許しません」
『…は、』
「私は傷つきました。なまえ」
『だから、ごめんねって』
「そんな言葉だけでは許しません」


面倒な事になった。トレイは一度機嫌を損ねると直すのが面倒だ。いつも無理難題を言ってくる。…この場合は、


『…逃げるがなんとやら!』
「逃がしません!」
『ギャアアア!!!』


勢いよくこたつから出ようとした私の足をトレイが掴む。当然私はバランスを崩し、床に倒れ込む。そんなみじめな私の肩と腰をしっかりとホールドして、自分の前に座らせるトレイ。…つまり、私は今トレイにだっこされてこたつに入っているような形になる。なにこれ、恥ずかしい!


「なまえ、温かいですね」
『わああ!トレイ、手冷たいから!』


トレイはひんやりとした手で私の首に触れた。冷たさに体がぞくりと震える。後ろから、温かいですと言うトレイはきっとにこやかに笑っているのだろう。反対に私は体温を奪われて、寒い。小さく冷たいと呟くと、トレイはぎゅうと抱きしめてきた。


「これで寒くないでしょう?」
『………。』


照れくさくてなにも言えない。私はただ黙ってこくりと頷く。するとトレイは可笑しそうに息をもらして私の頭をぽんぽんと撫でた。寒い冬は嫌いだけど、こうやって過ごせるなら、そんなに悪くはないかな。
小さく欠伸をもらすと、「昼寝してもいいですよ」と耳元で囁かせる温かさが眠気を運んできたようだ。私はトレイの胸に体を預けて目を閉じた。



(おやすみなさい)
(おやすみなさい、なまえ)




Winter 0 企画
120115 渡愛






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