昨晩から酷く降り続けた雪が、漸く穏やかになってきた頃。 まだ完治していない足を庇いながらソファーに深く座ると、吸い込まれるように身体が沈んでいった。

ここは魔導院・サロン。大円卓を囲むように置かれた金細工がラグジュアリーなソファーで、候補生達はそれぞれお喋りを楽しんでいた。コソコソと噂話をする者、キャーキャーと恋の話に花を咲かせる者、またその端でウトウトとする者。


そんな中、なまえは一人その明るい雰囲気に馴染めずにいた。両隣に座っているクラスメイト二人が何やら楽しそうに会話をしているも、全く耳に入って来なかった。


溜め息が無意識のうちに繰り返される。すると、右隣に座っていたクラスメイトが心配そうに言った。



「なまえ…また溜め息」
「…え?!うそ、ごめん」
「何か昨日の夜から元気ないよね。足の調子悪いの?」
「ううん!そんなんじゃない、大丈夫大丈夫…」



大袈裟に身振り手振り精一杯の笑顔を見せるが、明らかに「大丈夫」じゃないのがバレてしまったのか。クラスメイトが心配そうに眉を下げた。


昨日の夜から───全くその通りだった。どうしても昨夜の出来事が頭から離れなかった。考えれば考える程、流れる渦に呑み込まれていくよう。









「あっ、なまえあれ彼氏じゃない?」
「えっ!?」
「ほらあの朱色マント!間違いないよ!」



突然上げた彼女たちの声の先にはジャックの姿があった。

ドクン、と心臓が脈を打って跳ねた。



スラリとした高身長、端正な顔立ち。オールバックのように纏めた金色の髪からは何本かのこぼれ毛が、太陽の光が雪に反射していつもより輝いて見えた。ジャックは辺りをキョロキョロと見渡して、何かを探しているようだ。



「あっ」



自分でも知らないうちに見とれてしまっていたのか、途端振り向いた彼と目が合ってしまった。目をそらす間もなくそのまま近付いてくるジャック。

いつもみたいに、ニヒルな笑みを浮かべて───


少しホッとした自分がいた。






「なまえちゃんここにいたんだぁ〜探したよ〜」
「ジャック…」
「今日は足の調子どう〜?」
「う、うん…だいじょ、うぶ…」
「ん?」



しかし恋人との弾むはずの会話が暗くなる。目の前にはいつものように飄々とした態度のジャック。あれは何かの見間違いだった…?いや、間違いなく昨日………



ジャックは泣いていたんだ。







昨夜は満月だった。雪が降り初め、月夜に照らされるそれはとても幻想的で…こっそりと寮を出て一人空をぼんやりと眺めていた。

冷え込んできた寒さに部屋に戻ろうと視線を落とすと、白い息を吐きながら男子寮から出ていくジャックの姿。どこ行くんだろう?何気なく後を追って、角を曲がった所で思わず息を飲んだ。

そこには影に隠れて声を押し殺して泣いてるジャックがいた。

大きな月に隠れるように、たった一人きりで───









黙ったままのなまえとただニコニコとするだけのジャックに、クラスメイトはニヤニヤしながらも気をきかせてその場を去って行った。




「あ、そうだ!僕なまえちゃんに見せたいものがあって来たんだった〜!」
「…?見せたいもの?」



心当たりは全くなかった。ソファーに立てかけてあった松葉杖をひょい、と持ち上げたジャックは、なまえの目の前に背中を向けてしゃがみ込んだ。



「ジャック、何してるの?」
「だって足怪我してるんだから歩くの大変でしょ〜?」



おんぶ、と言われ赤面するなまえは慌てて首を振った。



「だ、大丈夫!!ゆっくりだけど歩けるから」
「じゃあお姫様抱っこにする?」
「…それは絶対やだ」
「じゃあはやくつかまって〜」
「………う………」



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