その心にある想いに


「寒いね」

慣れた手つきで二人分のコーヒーを入れてキッチンから出てきたなまえは、リビングにあるソファに座りカップをテーブルに置いた
その音に外の景色を眺めていた視線をテーブルへと向け、開いていたカーテンを閉じてソファへと足を進めた

「雪が降っているからな」

「そうなの?」

好奇心からかなまえはすれ違うようにして窓へと向かい少しだけカーテンを左右に開いて、静かに宙を舞う雪を眺める
テーブルに置いてあるカップを手に取り暖かいコーヒーを喉に流せばいつもよりも幾分か苦い味に、何故か違和感が胸に広がりカップをテーブルに戻して窓の前に立つなまえへと近付いた

「なまえ」

「ねぇ、クラサメ隊長」

伸ばした手が柔らかい髪に触れるよりも先に開け放された窓から入る冷たい空気に煽られた髪が、まるで触れるのを拒否するかのように手を払った
それは捉え方の問題であるはずなのに名前を呼んだその声すらも普段と違う空気を纏っていて、身体の中から冷えていくような錯覚に嫌な予感しかしなかった

「別れて、欲しい」

「……………どうして」

告げられた言葉は数秒のうちに心の何処かで予想していたものであったが、脳が理解するには少々の時間が必要だった
先程コーヒーを飲んだはずなのに急に渇いてしまった喉から振り絞るように出した声は、思っていた以上に弱々しく動揺も哀愁も隠せてはいなかった

「クラサメ隊長よりも、好きな人がいるの」

そう言って振り返ったなまえの足元には、部屋の温度に耐えきれずただの水となった雪が落ちていた





(降り積もっていた愛は)
(跡形もなく溶かされたのか)






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