ヤンキーな先輩。ぞっこんな後輩。
「…先輩。」
「…。」
「詩音先輩。」
「あぁ?」
「何すかその返事の仕方。どこのヤンキーっすか。」
「そこはレディースだろ。」
「突っ込むとこそこっすか。」
机に肘をつきながらパラパラと音楽情報誌を読んでいる詩音先輩は本当に読んでいるのかというスピードでぺらぺらと捲っている。
以前「ホンマに読めとるんすか?」と聞いたら「最初はサラッと見て、後から読むの。」と言っていた。
最初から読めばいいのに。
そう言ったらものごっつ睨まれたのを覚えている。
詩音先輩は四天宝寺で怒らせたらアカン人ベスト3に入ると思う。
いや、マジで。
つか睨みで人の事殺せるんちゃうかと最近思っている。
「…なぁ先輩。」
「…あー?」
「その返事やめません?その目つきでその台詞とか誰も寄り付きませんよ。」
「あーん?」
「それはどこぞのナルシストっすわ。」
「あーはーん?」
「詩音先輩が言うと突っ込みにくいっすわ。」
「うるせぇな。読めねぇじゃん。」
「読まんでえぇっすわ。」
「いつ読むの今でしょ。」
「それ自分で全部言ってもうたら意味ないですやん。」
「だーもーうっせぇよ。」
「口悪いっすね。そんな口は塞いだりましょうか?」
「遠慮しまーす。」
「ほな、キスしましょか?」
「変わってねぇじゃん。」
ふ、と
片方の唇だけ上げて笑う先輩にドキッとする。
その不敵な笑み似合い過ぎやろ。
先輩が読んでいる雑誌に片手を置く。
ホンマは投げ捨てたいところやけど以前それをやったら本気の目で死ねと言われた。
もうあの時の心の負傷は思い出したくもない。
そして片手を置いただけでもめっさ睨まれてる。ごっつ睨まれてる。
もう心はズタボロやけど、負けじとその目を見返した。
「俺より雑誌スか。」
「ガキか。」
「もう何でもえぇですわ。俺だけ見といてください。」
「見てる見てる。」
「どこがっすか。ほんなら今何見とるんすか。」
「hyde。」
「それでよく俺を見てるて言えますね。」
「光の手の下にユッキー隠れちゃってんじゃん。どかせよ。」
「聞いてます?」
「どけってマジで。」
「犯しますよ。」
「ふふ、オッケー」
「ローラの真似とか何なんスか。超可愛いやないっすか。」
「何がしたいんだよ光は。」
「ヤりたいっす。」
「正直だな。」
「正直に言うたらヤらせてくれるやろ?」
「敬語じゃないとかふざけんな、死ね。」
めっさ怖いんやけど。普通に死ねとか普通に傷つくんやけど。
あーもー俺何でこんなヤンキー好きになったんやろ。
別に他にも美人で愛想いい奴おんのに。
なんで金パのヤンキーに惚れてしもたんやろか。
「…詩音先輩、カラメルかかっとりますよ。」
「ぅあーマジか。ブリーチ代あったかな。」
「もう抜かんでもえぇですやん。」
「うっせ。」
「……そないに謙也さんとお揃いがえぇんスか。」
「光の拗ねるポイントがわっかんね。」
「ほな次は黒にしまひょ。」
「ほなっておかしいだろ。ヤダよ。」
「何でや。俺の事好きとちゃうんすか。」
「髪の色で決まらねぇだろうが。ミルクティー色にすんぞ。」
「はぁー白石部長とお揃いとかマジないっすわ。そんな事したら監禁しますよ。」
「ふふ、オッケー。」
「またローラで騙されると思ってはるんですか。クソかわえぇ。」
手の皮を容赦なく抓られて渋々雑誌に置いていた手を離す。(若干皮が捲れとった。)
また雑誌に目がいってしまう詩音先輩にホンマに俺この人の彼氏なんやろかと疑う。
もういっそhydeの方が彼氏らしいとさえ思う。
雑誌を再び捲り始めた詩音先輩の横顔をじっと見つめた。
睫毛長いな。化粧全然してへんのに付けマみたいや。あ、逆睫毛。
肌綺麗やな。そらそうか。化粧せぇへんのやから。うわキメ細か。あー触りた。
目の色素薄。めっさ茶色や。カラコンは怖くて入れられへん言うとったから地やな。
つかカラコン怖いとかギャップありすぎやろ。どんだけかわえぇねん。キュン死にさす気か。
…柔らかそやな。唇。
いや実際めっさ柔らかいねんけど。
薄く開いたそこから舌入れたい。
あぁーめっさキスしたい。
「おい馬鹿光。全部口に出てんぞ。」
「あ、やっぱりっすか?てなわけでキスしましょ。」
「しつけーな。今忙しいっつーの。」
「彼氏と雑誌どっち取るんすか。」
「……。」
「悩むとか正気ですか。はぁーもーこれはお仕置きやな。」
「お前は足にキスでもしてろ。」
どしっ、と俺の膝の上に先輩の足が載せられる。
すんなり伸びた脚は無駄な肉もなくて白くて綺麗や。
その足を舐めるように見た後、詩音先輩に目線を移す。
「舐めてえぇすか?」
「聞くな、馬鹿か。ダメに決まってんだろ。」
「先輩が言ったんやないスか。」
「キスっつったんだよ。」
下ろそうとする足を捕まえて太腿に噛みつく。
柔らかさと滑らかさに目眩がした。
舌を這わせれば、卑猥な音を立てる。
太腿を舐めながら目線を上げると、こちらを見下ろす詩音先輩の目があった。
どくんっと熱が疼いた。
なんやこの背徳感、堪らんのやけど。
「おい、こら光。離せ。」
「先輩の太腿が俺から離れてくれへんのですわ。」
「どんな言い訳だ。ばか。」
くんっと、前髪を引っ張られて口を離す。
唇の唾液を拭うように舌を出せば、詩音先輩は不敵に笑った。
「こっちも。」
「…遅いっすわ。」
とんとん、と人差指で先輩が自分の唇を指す。
軽く笑って、手首ごと人差指を退かした。
何も塗られていない唇に噛みつくようにキスすれば、そこから熱い吐息が漏れた。
あぁ、せや。
この無愛想な先輩のエロいとこが堪らなく好きなんや。
何度も角度を変えて吸えば、自然と舌が絡み合う。
両足を持ち上げて机に押し倒せば詩音先輩は綺麗に笑った。
それに俺も笑い返して、挑発的な首筋に噛み付いた。
end
「おおおおお、お前らなにしてんねんっ!!!」
「…お盛んなんはえぇけどな、ここ部室やで。」
「おや、謙也と白石。早かったね。」
「早かったね、ちゃうわ!何普通に答えてんねん!!」
「はぁーもうマジお二人さん空気読んでください。」
「せやからここ部室やで。空気読むんはお前らやろ。」
「見せつけたりましょか?」
「何言うてんねん!!財前!!」
「俺はえぇけど。」
「白石まで何言うてん!!?」
「詩音の裸、俺らに見られてえぇのん?」
「…詩音先輩、はよ前閉めて下さい。」
「えぇー。」
「何不服そうな顔しとるんすか。ごっつかわえぇ。」
「イチャイチャすなぁぁああああああ!!!」