ゆめをむすぶ
そこは水のなかだった。青を凝らせた黒が満ちている、水のなかだった。
うねる黒糸をまとわりつかせている、柱のような、あおぐろい塊が浮いていた。黒糸の隙間からは、真白の肌と、黒の双円がのぞいている。
突如あらわれた無数の気泡が、凪いでいた青を掻き乱し、昇っていった。
あおぐろいものは横に眼を滑らせた。そこには鳶が佇んでいた。気泡の名残をまとわりつかせている鳶へ、あおぐろいものは声を投げた。
「路が重なったか」
硬くはあったが、拒絶をふくまない、物静かな声だった。既知のものへ相対するやわらかさを帯びていた。
応じる鳶は快活だ。
「そのようだ。あんた、まだここにいたのだな。待ちびとにはまだ会えないでいるわけか。懲りないな。重なりついでに朗報だ。群れの長であったあんたにとっては、面白いものではないかもしれないが」
鳶は黒円を見据える。
「あんたが差し出した金色のさかな、里の祭りで舞っていた」
黒に眼を据えたまま、ためすように、鳶は笑んだ。
「健在だ。よかったな」
あおぐろい塊のまわりを、鳶は飛び回る。水のなかであるからか、袖をなびかせながら跳ね踊るその身のこなしは、どことなく緩慢だ。
「金色のさかなと、たまには会っているのか?」
「いや」
「こんなふうに、路は重ならないのか?」
「そうだ」
「夢枕にでも立て」
「無茶をいう」
ため息をついた鳶が、どこかをうかがうようなそぶりを見せる。
「そろそろ夜明けだな」
あぐらをかいて浮かんでいた鳶が、あおぐろいものの黒円を見つめた。
「これから先のいつかにおいてふたたび路の重なることがあれば、また、とりとめもないはなしをしよう」
鳶が笑う。青だけが満ちる。残像すらゆらめかない水のなかに、あおぐろい塊は浮いている。
(『ゆめをむすぶ』/了)
(初出:第9回Text-Revolutions 頒布ペーパー の、予定だったペーパーのSS)
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