ひとり歩きと道連れ01
それはよく晴れたの日のことだった。その日のうちで最も太陽が高い頃、散歩する街からは影がなくなりかけていて、通りに敷き詰められた石畳は陽に照り輝いていた。
隣を歩くものがいた。艶やかな黒髪の、小柄で華奢なひとだった。照りかえしの白の
なかで、そのひとの肌は仄蒼く、透けるようであるのに翳っていた。ひとがたをした影
のようだった。ともに歩くその足取りは、かろやかだった。
そうこうしているうちに大通りにぶつかった。行く手が建築物に塞がれる格好となっ
た。目の前に立ちはだかった壁は硝子張りで、鏡面のように輝いていた。
傍らで立ちどまり、そのひとは問いかけてきた。
「まだ厭きないのかい?」
歩をとめて、首だけをめぐらせて、星空のような目を見つめかえす。
「もうちょっとだけ、遊んでいくことにするよ」
この答えに、そのひとは呆れたようだった。口の端が吊りあがり、嘲弄がゆらめく。
「そうか」
声にふくまれている憐れみに気づかないふりをして、前を向いた。ふたり並んで歩い
ていたはずなのに、硝子の壁に映っているのはひとりだけだった。黒髪と、白い肌と、
星空のような目。ひとがたをした夜のようなそれは、ここにいるものの鏡像だ。
今日はよく晴れている。明日は曇りかもしれない。たまには雨の日だってあるだろう。
だけど、空はいつだってそこにある。
ふたたび歩き始めることにする。散歩の続きと洒落こもう。
どこかへとつながっている大通りを、ひとりだけで、歩いていく。
(『ひとり歩きと道連れ』/了)
(初出:第三回静岡文学マルシェ/ポストカードギャザリング)
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