碧淵04




 はじめは重湯、次には薄い粥。食事は次第にかたちを得て、このところでは具が添えられるようになってきた。さかなはよほど退屈しているのか、しばしばあの角に姿を現した。さかなの泳ぎにぎこちないところがなくなってくると、少女の目を掻い潜ることは容易になった。
 さかなはいろいろなはなしをしてくれた。
 怪我でもしていたのかと問えば、さかなは治りが早いものなのですと答えた。ここはどういった場所なのかと問えば、山の頂にあたりますと答えた。

「水の湧くこの池は、川となって、流れ落ちているのです。山をおりていくと、里があります」

 陽だまりに漂っているさかなと同様に、身の回りの世話をしてくれている少女も、いろいろなことをはなしてくれた。
 ずっとここで暮らしているのかと問えば、里の生まれであると答えた。どうやって暮らしているのかと問えば、入り用のものはすべて里の者が揃えてくれると答えた。

「こちらから山をおりていくとね、川の手前に家がある。今は誰かが住んでいるわけではなくて、崩れかかった柱と屋根の組み合わせが、風雨を凌げるくらいのものではあるらしいのだけれど。近くに人家があるわけではないから、夜であれば真っ暗だろうね。ここに来る前の君が放りこまれていたのが、そこだ」

 その日はよく晴れていた。池を眺めてみると、鋭い陽光が照り映えて、鏡を張ったようだった。まばゆさに目を眇めると、波紋のようなものが見て取れた。ゆらめく水面が、金色をとざしていた。

「よかった。また、泳いでいる」

 傍にいた少女が呟いた。 
 あくる日、少女の目を盗んで門のところまで行ってみた。門をくぐるまでもなく、交差された長柄に行く手を阻まれた。またあくる日は、垣のそばまで茂みを掻き分けていった。垣に手をかけるまでもなく、槍のようなものが飛んできた。的を避けるつもりはないようだった。
 おそらく、外に出ることを阻んでいるのが、さかなの言っていた衛士なのだろう。垣に近づいたことを衛士に報せられたのだろうか。後に少女に叱られた。

「賊に襲われた商人が、助けられたことの対価として差し出した子供は、このあたりのものではないかたちをしていたと、そう聞いた」

 少女はこちらの目を覗きこんできた。

「君の目は、新芽みたいな、やわらかい色をしている」

 そこで示されたものには、困惑するしかなかった。その色がどんなものであるのか、心当りがない。

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