黒鱗03





 この身を洗った波が、海原へと引いていく。渦巻く潮騒に潰されそうになる。
 貝殻であったのなら幻でもゆらめかせて遊ぶことができたのかもしれないが、ここに流れ着くまでに角のとれてしまった砕けた骨の欠片では、そうもいかない。
 きんいろのさかな。心当たりがないわけではない。
 陽だまりに漂いながら、ふわふわと微笑んていたさかながいた。水溜りに落ちた雨粒のように場に馴染み、印象そのものがひどく漠としていて、風に吹かれたら霧散してしまいそうな、霧が凝っているようなさかなだった。放って置いたらそこで息をし続けているのかすら心もとないようなさかなだ。
 聡明であるはずなのに、ある一点においてだけあまりにも愚直なそいつを、おれたちは金鱗と呼んでいた。


<黒鱗/了>

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