朔望月花02





 満ちて欠けて去ることを、月は繰り返す。満ち欠けの一巡に一度、あるかないかほどの頻度で、少女は男を訪れた。少女の来訪は決まって夜だったが、男が寝ていたことはない。男には夜に遊び太陽を恨むような節があり、どうしてすべての陽を射落とさなかったのかと、少女がねだったむかしがたりを披露しながら見当違いの愚痴をこぼしたりした。
 何度目かの来訪の折、男は少女に訊いた。

「今更だが、居を空けていて怒られないのか?」
「おじさんと違って、わたしはとじこめられていないもの」

 簡潔な返答に、男は苦笑しながら肩をすくめてみせた。
 いつしか男は月が消えて生まれる数をかぞえることを止めてしまった。少女が男をおとなったのは十月十日よりも長かったが、やがて足音は途絶えてしまった。

「夢を見たの。小鳥が卵を呑みこむ夢」

 桃の老木に凭れて座る男が、まぼろしに少女の声を聞く。淡雪のように舞い降る花びらが、月光を爪弾き、白銀に閃く。鈴の啼くような声は男の芯へと指先を伸ばし、埋めていた情動を優しく揺らす。

「眠っていた番が目を覚ます」

 懐古のような寂寞のようなものを孕んだ声が、花びらの雨を眺める男の唇から紡がれる。
 境の池の土中で対峙しているものの一方は、果たして、肉を得たのだろうか。盛んにすることと眠ることを繰り返すそれに添い遂げるよう定められた少女が姿を見せなくなったことが答えであるようでもあるが、答えを知るすべは男にはない。男にとって確かなことは、己の見る夢についてだけだった。
 男の夢のなかではばたく小鳥は、まだ、卵を呑んでいない。


『朔望月花』(了)
初出:『掌を繋いで』2016年

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