夢見鳥と映日紅01



 艶を帯びた黒が天を覆っていた。
潤んだ星辰が黒を廻る。零れるように瞬く光は、星宿のかたちをすべらせながら、夜に溺れて滲んでいた。
 竹林のゆるやかな傾斜を、土に埋もれた石を濡らし、弾け、泡を渦巻かせて、水が流れてゆく。初夏にたゆたう竹林には、地を抉る清流の水音と、せせらぎめいた竹の葉の囁きが響いていた。下草をすら生やさぬほどに、竹の根が地を這っている。絡まり縺れる根の網には、糸のようにほぐれる色褪せた葉が、重なるようにひっかかっていた。
 竹園の底から天を仰ぐも、頭を垂れる竹だけが、隙間を埋めんとする格子のように、そこにはあった。畢竟、優雅に散策できるような道があるはずもない。しなやかで太い竹は、そこに踏みこめば迷うことが必至であるほどに、密な竹林を成していた。
槍のように天を突く青竹の皮が、竹葉の蓋を貫く勢いのまま、はがれかけている。ちいさな皓い手が、縋るように、皮ごと青竹を掴んだ。紅の衣が翻る。すべらかな黒檀の髪が風を孕んだ。十をいくつか越えたほどの、紅を纏う少女がよろめく。少女の掴んだ青竹は沈むように撓り、琴を奏でるように、そこここの竹を爪弾いていった。
片手で青竹を掴んだまま、竹の根を掻き分けるように、少女はしゃがみこむ。
幾重もの澄んだ残響に、清流のざわつきが穿たれていった。
肩を上下させ、息を整える少女の、桃の花弁のような唇が、夏を帯びた大気を含む。大気に蟠る細かな水は、少女の頬にやわらかさをもたらすとともに、白桃のごとき肌をこわばらせていった。
節にあわい綿のようなものを漂わせている、天を貫かんとする逞しい竹に、傾いだ細い竹が寄り掛かっていた。青竹と枯れた竹で編まれた籠の目に覗く、黒々とした口を、少女は見つける。やや吊り気味の少女の目が、柘榴を凝らせたかのような黒を呈した。
ゆっくりと立ち上がると、少女は口をあけている竹林の淵へと歩み出す。よろめくように漂うように、時にまろびながら、ふわり、ふうわりと、少女は竹の間を縫った。少女の身が傾ぐ度に、蝶のように幽鬼のように、紅と黒檀がゆらめく。
やがて、斜面にぱくりと裂けた洞穴の淵で、竹林を漂う蝶は翅をやすめた。
洞を覗きこむ少女の髪が、見えない流れに誘われて、花をまさぐる蝶の口のように、洞の奥へと漂う。やわらかな指先が、水草のように岩肌を覆う、しずくの滴る苔に沈んだ。夜露と苔に飾られた洞の口は、少女よりは大きかったが、大人の男であれば、喰われるに難儀しそうな大きさだった。
竹林に砕かれた星影が、風に潰える残滓をもって、夜露にきらめく。
火に導かれる羽虫のように、洞の奥へと少女は身を沈めた。

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