狗吠02
「さびしくないか?」
最後の一匹の爪を手入れしながら問いを零す。白犬はいなくなった犬の行方を問いかけるような幼い目で私を見あげた。燃えるような琥珀のあまりの純粋さに、愚問にすぎたと後悔する。寝そべって私の膝に前足をのせている白犬は、雪あかりを縒ったかのような豊かな毛並みを板張りの床に広げていた。爪の手入れが終わると、絹のすべらかさをもって優美に渦巻く長い毛を梳きながら、私は白犬の背に頬を埋めた。呼吸に膨れ縮む肢体はしなやかで、毛並み越しの体温は高く心地よい。
静寂が夜を潰し、夜気のつめたさが私の指先から熱を奪う。やわらかくあたたかな毛玉を抱きしめていると、いつしか、私は眠りに落ちていた。
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