狗吠01


 早逝した父の務めを継いだのは八歳の時だった。邑の最奥で飼われている犬の世話をすることが、それからの私の日々を埋めることになった。私がすべきことは犬を健やかに育んでいくことであったから、犬がどこから連れてこられていたのかは知らなかった。
 ある時、生後一年にも満たないであろう白犬が数匹、私に託された。そのまっしろな仔犬たちが兄弟姉妹であるのかは判らなかった。それでも、ふわふわの白い毛と日輪の雫のような琥珀の目が、邑の陋巷あたりをうろついているような犬ではないことを告げていた。仔犬たちに乳を与え、躾をほどこし、湯をつかわせる。白犬たちは、時にじゃれあい時に喧嘩をしながらも、無邪気におおきくなっていった。
 私が世話をしていたのは白犬たちだけではなかった。黒犬もいれば赤犬もいて、大柄なものもいれば小柄なものもいた。歳もまちまちで、老犬もいれば仔犬もいた。犬たちは邑のために生かされていたから、時折、邑のために選ばれた一匹を私は連れ出した。犬がいなくなると、決まって、私は邑の門を直視できなくなった。
 それでも、最初の三年ほどは、私の許から犬がはなれていくことは年に一度あるかないかだった。その後、月に一度あるかないかくらいまでになっていた。いつしか邑はあらたな犬を連れてくることができなくなり、私の務めの対象は白犬たちだけとなってしまった。その白犬たちも、一匹ずつ、私の許を後にしていった。

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